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[がん政策レター 2012/06/12(第71号)]さらに前進する米国の臨床腫瘍学会

配信日付:2012年06月12日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2012/06/12(第71号)
■□   がん政策レター   □■  日本医療政策機構 市民医療協議会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ がん政策情報センター

がん政策レターでは、各地の「がん患者アドボケート」による活動やがん対策
の好事例を紹介し、がん医療の“均てん化”を目指します。

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[1] センター長コラム
[2] がん対策レポート
[3] インフォメーション
[4] がん対策トピックス
[5] がん対策ニュース

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[1] センター長コラム

●さらに前進する米国の臨床腫瘍学会

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会(6月1日~5日)に行ってきました。
たくさんの刺激を受けました。ASCOでは、新薬の臨床試験から患者のQOL(生
活の質)などまで、広いテーマが扱われます。専門や関心によって、それぞ
れ注目する点は異なると思いますが、ここでは、数点のトピックをご紹介し
ます。

 オープニングセッションでは、米国がん協会(ACS)最高経営責任者のジョ
ン・セフリン氏が特別講演を行いました。米国は米国がん法(National Canc
er Act)の制定40周年に当たります。セフリン氏は、これまでのがん対策に
よって、およそ100万人の死が防げたと指摘しました。一方で、学歴などによ
って大きながん死亡率格差が生じており、そうした格差を解消することによ
って多くの人の死が抑止できるはずであることを強調しました。

 本年の学会長であったマイケル・リンク氏は、自身の小児白血病の研究や
治療の経験から、がんには多様性があり、がんの発生する場所や細胞の種類
よりは、がんを引き起こすメカニズムであるシグナル伝達経路の観点から、
がんを捉えていく重要性を指摘しました。また、多様な職種と関係者が協働
することで、がんの治療やケアやサバイバーシップ(がん経験者のケアや生
活上の悩みへの対処)の課題解決が進展してきたのであり、協働がさらなる
進歩のカギであるとしました。また、今後の展望として、がんの臨床と研究
における、迅速学習システム(Rapid learning system)という概念を紹介し
ました。これは、がんの臨床試験や治療、がん登録等のデータを一元管理し
て、そこから有益な知見を見出していくという考えです。

 ASCOのがん医療の質向上に関する取り組みは、さらに盛んになっていまし
た。ASCOは、QOPI(Quality Oncology Practice Initiative、質の高いがん
診療推進活動)と呼ばれる活動を展開しています。これは臨床ガイドライン
などから、推奨すべき診療行為の臨床指標リストを作成し、それを実行して
いるかどうかの順守率を計測するものです。全体と自分の位置づけが分かる
報告書を、参加している施設、診療科などに戻すことで、全体の順守率が高
まりがん診療の質が高まっていくというわけです。それ以前の試行を踏まえ
て2006年に開始され、10年にはASCOによる認定制度になりました。参加者が
拡大しており、今年の11月末には、QOPIを中心としたがん診療の質をテーマ
としたシンポジウムを初開催するとのことでした。

 また、あらたにCancerLinQ(Learning Intelligence Network for Quality、
診療の質のための学習知能ネットワーク)を立ち上げ、電子カルテ、臨床試
験、QOPIなどの情報を一元データベースとし、そこから診療に有益な情報を
発見していくとのこと。まさにリンク氏が言及した迅速学習システムへの挑
戦です。

 ASCO年次総会の醍醐味は、やはり抗がん剤の臨床試験結果の発表でしょう。
今年も多くの重要な研究が、このタイミングに合わせて発表されました。こ
うした結果が全米、各国へ波及していきます。こうした臨床試験結果発表を
紹介する日本語サイトがいくつかありますので、自分の関心のある疾患につ
いては、見ておくといいかも知れません。分子標的薬に関する臨床試験の発
表の活気は、まだ続きそうでした。

 ASCOは臨床試験のあり方や枠組みも変革していこうとしているようです。
昨年11月には、「がんに対する進歩を加速する~ASCOの臨床・探索研究に関
する青写真~」と題した提言書を発表し、そのための13点の推奨策を列記し
ています。また、米国ではIOM(米国医学研究所)の推奨に基づき、臨床試験
グループの再編・統合が進んでいます。さらにNCI(米国がん研究所)による
臨床試験支援策も、改善が図られているとのこと。

 ASCOの花形は抗がん剤の臨床試験であるとしても、その他にも見どころが
たくさんあります。たとえば、医療サービス研究(Health Service Research、
HSR)や、患者・サバイバーケアという分野も立てられ、多くの発表が行われ
ます。

 医療サービス研究は医療の体制や内容、結果などについて分析するもので
すが、ここで多いのがセフリン氏のスピーチもあった、格差に関する研究で、
人種、年齢、性別、地域、収入、学歴などによる差を考察するものです。今
年も、「乳がんにおける人種格差」「高齢進行がん患者の治療費と生存率の
地域格差」「加入した健康保険と受療行動の格差」などに関する発表があり
ました。日本でも患者の経済状況や地域によって治療成績に差が出ている恐
れがあり、こうした研究がなされることが望まれます。米国ではこうした研
究の多くには地域がん登録のデータが活用されており、地域がん登録の整備
が前提となります。

 医療サービス研究や患者・サバイバー研究の中では、患者のQOL、経済負担
などに関するものも多くあります。学会長のリンク氏は、小児科医として、
小児がん患者のサバイバーが成人後に直面する課題など、サバイバーシップ
に関心が高いようです。ASCOは昨年、がんサバイバーシップ委員会を設置し、
会員への教育強化など対応を進めています。患者・サバイバー研究の分野で
は、抗がん剤の副作用の軽減のための研究などが多数発表されます。

 今年もASCOは患者アドボケート支援プログラムを実施しました。患者団体
展示ブースの提供、患者ラウンジの設置、研究者による主要な発表の解説、
学会長セレモニーへの招待など、ほぼ例年どおりの内容が定着しているよう
です。約100団体から300人以上が参加したとのことでした。

 6月2日の夕方には患者ラウンジにおいて、アライアンスという臨床試験グ
ループによる勉強会がありました。アライアンスは、先に述べた米国の臨床
試験グループの再編・統合のなかで、3つのグループが統合されたものです。
米国の臨床試験グループでは、患者アドボケート委員会があり、また、各疾
病別臨床試験を検討する委員会にも患者委員が入っています。医師・研究者
のエディス・ペレス氏は、「研究者はつい研究の側面からだけ臨床試験を設
計し、患者の負担を考えずに頻回の採血を組み入れようとしたりする。患者
の視点から、それは負担が大きく現実的ではない、本当に意味があるの、な
どと問いかけることが大切」と指摘していました。患者アドボケート委員会
副座長のベティ・グリーンさんは、患者アドボケートが臨床試験を猛勉強し、
専門家とほぼ対等に話せるようになることが大切とし、患者アドボケートの
ためのトレーニングコースの整備に力を入れています。世界中の医療機関の
倫理委員会(IRB)において、患者委員が活躍する日が来ることが夢のようで
した。

 米国では臨床試験実施体制の発展も、患者参加の進展も、さらに前に歩も
うとしているのを感じました。(センター長 埴岡 健一)

参考サイト

>>米国臨床腫瘍学会(ASCO)2012年次総会(英語)
http://chicago2012.asco.org/
>>「米国のASCOに出席し、NCIとFDAを訪問し、JHU病院も見学しました」
(がん政策レター2011/06/14)(2011年次総会に関する記事)
http://ganseisaku.net/impact/mailmagazine/gan_/0045.txt
>>がんナビ ニュース一覧(ASCOの主要演題の概要が日本語で掲載されています)
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/cancernavi/news/
>>「サバイバーシップ」「がん診療の質向上」に注力する米学会(2006年次総会に関する記事)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/report/200610/100028.html
>>診療の質指標(平成18年度厚生労働省第がん臨床研究事業、がん対策にお
ける管理評価指標群の策定とその計測システムの確立に関する研究班)
http://qi.ncc.go.jp/index.html


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[2] がん対策レポート

●WHO公開「がん対策シリーズ」を翻訳

 世界保健機関(WHO)が公開している「がん対策シリーズ」の中から、「計画
策定編」を日本語に翻訳いたしました。効果的ながん対策を策定するために
役立つプロセスについてのガイダンス本です。

 計画策定のステップを、1.現状を見極める、2.目標を定める、3.目標の達
成方法を探る、とし、それぞれのステップで何をすべきかについて書かれて
います。がん政策サミット2011春では、この冊子を元にしたワークショップ
を行いました。都道府県がん計画策定期の今だからこそ、ぜひご一読いただ
きたい1冊です。

>>世界保健機関(WHO)によるがん対策シリーズ「計画策定」
http://ganseisaku.net/practices/archives/advocacy/who_planning.html


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[3] インフォメーション

●がん部位別死亡率を更新

 胃がん、結腸がん、直腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、子宮がん、卵
巣がん、前立腺がん、白血病、悪性リンパ腫、大腸がんの12タイプについて、
2010年データを掲載しました。

 ご確認ください。

>>がん部位別死亡率を更新
http://ganseisaku.net/gap/data/gan/prefectures/buibetsu/


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[4] がん対策トピックス

>>がん対策推進基本計画〔6月8日更新〕
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan_keikaku.html

>>がん情報サービス〔6月6日更新〕
http://ganjoho.jp/public/index.html


>>健康推進課がん対策室〔6月11日更新、秋田県〕
http://www.pref.akita.lg.jp/www/genre/0000000000000/1238473618657/index.html

>>茨城県のがん対策〔6月8日更新、茨城県〕
http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/yobo/cancergroup/index/index.html

>>北海道のがん対策情報〔6月7日更新、北海道〕
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/gantaisakujyouhou.htm

>>かながわのがん対策〔6月7日更新、神奈川県〕
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f417303/

>>広島がんネット〔6月5日更新、広島県〕
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/gan-net/

>>しまねのがん対策〔6月4日更新、島根県〕
http://www.shimane-gan.jp/index.html


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[5] がん対策ニュース

>>小児がん拠点病院の要件を集中審議へ- 厚労省「小児がん医療」検討会、12日開催[6月11日、CBNews]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120611-00000000-cbn-soci

>>5疾病5事業を重点に/新保健医療計画協議会/香川県[6月9日、四国新聞]
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/administration/20120609000124

>>たばこ喫煙率盛った「がん対策」閣議決定-「禁煙したい人の数が基」厚労相[6月8日、CBNews]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120608-00000000-cbn-soci

>>喫煙率で初の数値目標、がん予防 基本計画を閣議決定[6月8日、共同通信]
http://www.47news.jp/CN/201206/CN2012060801001243.html

>>三木市民病院にがん看護相談外来[6月8日、神戸新聞]
http://www.kobe-np.co.jp/news/touban/0005118492.shtml

※がん対策関連のニュースは下記にまとめて掲載しております。
http://ganseisaku.net/newsclip/


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日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センターでは定期的にメール
マガジンを配信しております。
配信の停止をご希望の方は、下記事務局まで、連絡してください。
今後とも当機構の活動へのご支援を何とぞよろしくお願い申し上げます。

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がん政策レター 2012/06/12(第71号)

発行所	   :日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター
発行人/編集長:埴岡 健一

住所	   :〒102-0083 東京都千代田区麹町2-10-10-101
Tel	   :03-3222-6532
Fax	   :03-3222-6535
E-mail	   :gan_newsletter@hgpi.org
Web	   :http://ganseisaku.net/
	    http://www.shimin-iryou.org/

Copyright(c) 2012 日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター
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