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[がん政策レター 2012/08/21(第76号)]数字の意味は、見方で変わる

配信日付:2012年08月21日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2012/08/21(第76号)
■□   がん政策レター   □■  日本医療政策機構 市民医療協議会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ がん政策情報センター

がん政策レターでは、各地の「がん患者アドボケート」による活動やがん対策
の好事例を紹介し、がん医療の“均てん化”を目指します。

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[1] センター長コラム
[2] がん対策レポート
[3] インフォメーション
[4] がん対策トピックス
[5] がん対策ニュース

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[1] センター長コラム

●数字の意味は、見方で変わる

 テレビや新聞ではロンドンオリンピックで活躍した日本選手たちに関する報道が続い
ています。数少ない明るい話題ですね。

 「日本メダル獲得、史上最高38個」などと、メダル獲得数についても、よくコメント
がされています。このメダル数について少し調べてみました。新聞でよく見るのは次の
ようなランキングです。金メダルの数でランキングし、同数の場合は銀メダルの数の順
に並べてあります。日本は合計個数では6位ですが、この方式だと11位です。

□メダル獲得数ランキング
順位 国名(金、銀、銅)合計数
1.米国(46、29、29)104
2.中国(38、27、23)88
3.英国(29、17、19)65
4.ロシア(24、26、32)82
5.韓国(13、8、7)28
6.ドイツ(11、19、14)44
7.フランス(11、11、12)34
8.イタリア(8、9、11)28
9.ハンガリー(8、4、5)17
10.オーストラリア(7、16、12)35
11.日本(7、14、17)38
(出典は、末尾の参考リンク参照)

 この中には、米国(約3億人)や中国(約13億人)のように人口が多いところもあれば、
ハンガリー(約1000万人)のように比較的少ないところもあります。あのボルト選手ら
の活躍したジャマイカは人口が約300万人なのに、金が4つでした。日本の人口に単純換
算すると約160個で、そういう意味ではジャマイカの“金メダル獲得力”は日本(金7個)
の25倍となります。かねてから人口対比など別の角度で見ればどうなるのだろうという
疑問を持っていました。また、メダル増減の経年変化の動向はどうなっているのかとい
う興味もありました。そこで自分でデータを集めて計算をやりはじめたところ、ちょう
どまさにそうした分析をした「Medals per Capita(人口比メダル数)」というサイト
(英語)に遭遇しました。

 このサイトは、歴代オリンピックにおけるメダル数を人口比、国内総生産比で計算
し、ランキングしています。金4点、銀2点、銅1点の重みづけをしてから、人口比で計算
した数字もあります。その方法だと、次のようになります(10位までと、上記で挙がっ
た国を抜粋しました)。

□調整後ランキング
順位 国名
1.グレナダ
2.バハマ
3.ジャマイカ
4.ニュージーランド
5.トリニダード・トバゴ
6.ハンガリー
7.スロベニア
8.リトアニア
9.クロアチア
10.デンマーク
・・・
12.オーストラリア
15.英国
28.韓国
31.ロシア
33.フランス
35.ドイツ
38.イタリア
42.米国
51.日本
68.中国
(出典は、末尾の参考リンク参照)

 さきほどのランキングとは、ずいぶん異なった光景となってきます。ハンガリーの他
に、ジャマイカ、ニュージーランド、スロベニアなどが上位に入ってきます。一方で、
米国(42位)、日本(51位)、中国(68位)はいずれも、わりと凡庸な順位同士だと言
えなくもありません。既存の数字を集めて少し加工しただけでも、これほど刺激的な情
報となってきます。

 では、メダル増減の変化率ではどうなるでしょう。これも単純数でみるか調整後数で
見るかによって異なってきますが、ここでは上記の調整後ランキングを使い、2004年の
アテネオリンピックから今回のロンドンオリンピックへの順位の変化を見ました。上が
ったところ、下がったところ、いくつかピックアップしてみましょう。

 大きく上昇したところを2つあげましょう。開催国の英国以外では、クロアチアの上昇
が目立ちます。

・英国 31位から15位へ16位上昇
・クロアチア 20位から9位へ11位上昇

 一方、低下したところは、次のようになります。2004年開催国のギリシアや2000年開
催国のオーストラリアは、“開催国効果”が消えてきたのでしょうか。日本はこの計算
方式によってこの期間を計測すると、むしろ低下しています。

・ギリシア 8位から66位へ58位低下
・日本 40位から51位へ11位低下
・イタリア 27位から38位へ11位低下
・オーストラリア 2位から12位へ10位低下

 さらに見ると、ジャマイカは4位から3位に1位上がっただけです。ハンガリーは5位か
ら6位に1位だけ下がっています。両国とも、アテネのときから強かったのですね。中国
は2008年の開催国でしたが、2004年から2012年の区切りでは66位から68位と、ほぼ変化
がありません。米国は37位から42位に少し下がっています。

 ランキング方法や測定期間によって、順位変動の様子はかなり異なってきます。です
から、ひとつの切り口だけから見るのは危険です。ただ、さまざまな視点から見ていく
と、さまざまな気づきがあり、頭の体操にもなるでしょう。

 スポーツ振興という政策の側面に視点を移してみましょう。英国のメダル数上昇は英
国政府のスポーツ振興策の効果があったからとも言われています。日本でも、マルチサ
ポートセンターによる選手への支援がマスコミでも話題になっています。文部科学省の
「文部科学白書平成24年度」の第6章第2節2では「世界で競い合うトップアスリートの育
成・強化」として、日本の政策の一端が描かれています。

 こうした資料を読むと、さらに知りたいことが増えてきます。近年の開催国であるオ
ーストラリア、ギリシア、中国、英国の政府による「オリンピック選手強化費」の推移
はどうだったのでしょう。“メダル獲得力”の強いジャマイカ、ハンガリー、クロアチ
アでは、どんな強化策が打たれてきたのでしょう。そもそも、政府が支出する対策費は、
どれぐらいメダル数に影響を与えてきたのでしょう。選手、スポーツ界、政府の努力の
相関関係をどう考え、政府の役割の範囲と限界はどう捉えればいいのでしょう。スポー
ツ振興の目標設定は、スポーツ人口の増加とオリンピックメダル増加の、どちらを尺度
にするのが妥当なのでしょうか。施策とその評価に関して、いろんな質問がわいてきま
す。また、すぐには見つからないデータや、まだ計測されていないであろう数値のこと
も、知りたくなってきます。

 前置きが長くなりました。こんなことをつらつらと書いてきたのも、がん対策と共通
点があると思ったからなのです。

 がん政策情報センターのウェブサイトでは、このたび、「がん死亡率(2010年)」「が
ん死亡改善率 10年改善率 2000~2010年」を掲載しました。「格差データ」コーナー
は、少しずつ更新していますので、ご活用いただければ幸いです。

 オリンピックメダル獲得数、がんの現況数値のいずれでも、見方によって数字の意味
が変わってくるのは同じです。元のデータ、調整後のデータ、変化率などのうち、どれ
を見るか。また、別のデータを対比したり組み合わせたりして、どのように読み解いて
いくか。都道府県のがんやがん対策の現況を見る際に、死亡数、死亡率、調整後死亡率、
死亡率変化など、どの数値に着目していくかといったことです。がん政策情報センター
では、死亡率の表示は、都道府県の間を比較的公平に比べられる75歳未満・年齢調整済
を主としています。死亡率(75歳未満・年齢調整済)の変化の度合いも掲載しています。
死亡率がそれほど高くなくても、死亡率改善率が著しく低いところは、原因と対策を検
討した方がよいかも知れません。また、医師や看護師数などの医療資源の数値や、喫煙
率、がん検診率などもありますので、それらの数値を組み合わせて、見ることもできる
ようにしてあります。

 がん対策でもスポーツ振興策でも、施策と効果の関係を評価するのは簡単ではないと
思います。しかし効果を高め、税金を投入する意義を確認するためには、できるだけ検
討を加えることや、評価可能な仕組みを徐々に作っていくことが大切なことと考えられ
ます。そのため、「現況を知り、対策を決め、実施して効果を測定する」--という循
環が重視されてきているのでしょう。そして、そのためには、評価材料となる数値を計
測し、その数値が意味を持つように加工していくことが欠かせないことになってきます。
まだない数値を新たに捕捉する仕組みを考えていくという営みも大切でしょう。そこに
は、オリンピックメダル数を人口割で調整した上でその推移をスポーツ振興予算と対比
したり、都道府県のがんの死亡率変化をがん対策予算と毎年見比べて続けていくといっ
たことも、含まれるのかも知れません。

 前号のこのコラムで「都道府県がん対策カルテ2012」を、ご紹介しました。その際は、
主に都道府県アンケートの結果の部分だけに触れました。カルテは、47都道府県別に、
がんの死亡、死亡率変化率、喫煙率・がん検診率、がんの医療資源などを一望できるか
たちで掲載しています。オリンピック選手の凱旋の様子のテレビ報道を見たあとで、も
う一度改めて、地元のがんに関連する数字を眺めてみませんか。(センター長 埴岡健一)

参考サイト

>>ロンドンオリンピックメダル獲得数(国別)
http://london.yahoo.co.jp/medal
>>Medals per Capita(英語)
http://www.medalspercapita.com/#weighted-per-capita:2012
>>「文部科学白書平成24年度」(第6章第2節の2)「世界で競い合うトップアスリートの育成・強化」
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201201/1324356_012.pdf
>>格差データ(コーナー入口)
http://ganseisaku.net/gap/data/gan/
>>都道府県がん対策カルテ2012
http://ganseisaku.net/practices/whitepaper/2012record.html


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[2] がん対策レポート

今回はお休みさせていただきます。
次号をお楽しみに。


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[3] インフォメーション

●「都道府県別がん対策カルテ2012」英語版 公開

 「都道府県がん対策カルテ2012」を英訳いたしました。

 日本のがん対策に興味を持つ外国人向けです。日本のがんの現況理解として、また地
域単位でデータを見ていく手法を海外の方にも知っていただければ幸いです。みなさん
の周りに該当する方がいらっしゃいましたら、ぜひご紹介ください。

>>都道府県別がん対策カルテ2012 英語版
http://ganseisaku.net/practices/whitepaper/2012record.html
(日本語版の下に掲載しております)


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[4] がん対策トピックス

>>しまねのがん対策〔8月20日更新、島根県〕
http://www.shimane-gan.jp/index.html

>>乳がん検診の受診率向上を図る啓発活動に関する協定を締結します〔8月18日更新、三重県〕
http://www.pref.mie.lg.jp/KENKIKA/SOGOH/details/index.asp?cd=2012070474&ctr=topics&pno=1

>>北海道のがん対策情報〔8月17日更新、北海道〕
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/gantaisakujyouhou.htm

>>宮崎県がん対策推進協議会(第1回)議事概要〔8月17日更新、宮崎県〕
http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/fukushi/kenko/cancer/page00168.html

>>栃木県のがん対策〔8月16日更新、栃木県〕
http://www.pref.tochigi.lg.jp/e04/welfare/gantaisaku/tochigikennogantaisaku.html

>>山梨のがん情報〔8月16日更新、山梨県〕
http://www.pref.yamanashi.jp/kenko-zsn/seizinhoken/ganjyouhou.html

>>広島がんネット〔8月16日更新、広島県〕
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/gan-net/

>>がんに関するイベントのお知らせ〔8月15日更新、千葉県〕
http://www.pref.chiba.lg.jp/kenzu/event/ganevent.html

>>青森県がん情報サービス〔8月13日更新、青森県〕
http://gan-info.pref.aomori.jp/public/

>>富山県がん対策推進計画〔8月10日更新、富山県〕
http://www.pref.toyama.jp/cms_cat/104010/kj00007062.html

>>がんに関する医療〔8月10日更新、愛媛県〕
http://www.pref.ehime.jp/h20180/gan_iryou/index.html


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[5] がん対策ニュース

>>庁舎禁煙7市町未実施…奈良県、来年度中の導入求める[8月20日、読売新聞]
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=63462

>>がん検診に経済格差 低所得者ほど低い受診率[8月16日、朝日新聞]
http://www.asahi.com/health/news/TKY201208130683.html

>>都道府県のがん対策協議会、開催回数倍増へ[8月15日、CBNews]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120815-00000005-cbn-soci

>>世界の健康度ランク、日本5位 首位はシンガポール[8月14日、日本経済新聞]
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1401D_U2A810C1EB1000/

>>医師ががん患者に「治癒」と伝える難しさ-聖路加石田氏「患者の背中押す」[8月14日、CBNews]
http://news.livedoor.com/article/detail/6854169/

※がん対策関連のニュースは下記にまとめて掲載しております。
http://ganseisaku.net/newsclip/


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日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センターでは定期的にメール
マガジンを配信しております。
配信の停止をご希望の方は、下記事務局まで、連絡してください。
今後とも当機構の活動へのご支援を何とぞよろしくお願い申し上げます。

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がん政策レター 2012/08/21(第76号)

発行所	   :日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター
発行人/編集長:埴岡 健一

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Copyright(c) 2012 日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター
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