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[がん政策レター 2012/09/04(第77号)]「世界がん会議」から日本のがん対策を展望する

配信日付:2012年09月04日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2012/09/04(第77号)
■□   がん政策レター   □■  日本医療政策機構 市民医療協議会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ がん政策情報センター

がん政策レターでは、各地の「がん患者アドボケート」による活動やがん対策
の好事例を紹介し、がん医療の“均てん化”を目指します。

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[1] センター長コラム
[2] がん対策レポート
[3] インフォメーション
[4] がん対策トピックス
[5] がん対策ニュース

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[1] センター長コラム

●「世界がん会議」から日本のがん対策を展望する

 8月27日から30日、カナダのモントリオールで開催された「世界対がん連合(UICC)」
の「世界がん会議(ワールド・キャンサー・コングレス)」に出席し、がん対策の動向
を勉強してきました。UICCはがん撲滅を目指す国際的民間組織で、2年に1回、世界がん
会議を開催しています。

 今回のテーマは、「世界的な効果のために連結する(Connecting For Global Impact)」
でした。みんなで目指すものとして「インパクト」という言葉が使われています。

 インパクトという言葉には、一般的な「影響」という意味もありますが、政策的な文
脈では、「アウトカム(成果)」に差を与える「効果」のことになります。すなわち、
施策を打ったことによる直接的な帰結を「アウトプット(結果)」、アウトプットがも
たらした健康状態などの状態を「アウトカム(成果)」、アウトカムへの影響を「イン
パクト(効果)」と言っています。

 例えば、ある相談支援事業を実施するという新施策を打って、1000人に相談を実施し、
500人の悩みが解消できたとしましょう。この場合、1000人への相談実施がアウトプット、
500人の悩み解消がアウトカムです。従来は200人しか悩み解消ができていなかったとし
たら、新施策のインパクトは500人マイナス200人で、「300人の悩み解消」となります。

 大会テーマでは、「世界各国が一致協力することだけでなく、“対策の効果を高める”」
ということが強く意識されていたわけです。

 今大会には、世界各地から約2000人が参加したとのこと。参加者はだいたい、3つのプ
レナリー(全体会議)、10余りの分科会、若干数のランチセッションに出るといったか
たちになります。分科会は、「(たばこを含む)予防と早期発見」「がんのケアとサバ
イバーシップ」「緩和ケアと疼痛管理」「がん対策の体系」の4分野があり、並行してセ
ッションが行われます。各分野20~30程度、合計約100のセッションがあります。同じ時
間に魅力的な演題が複数並び、どれを選択するべきか大いに迷うことになります。

 今回は、日本で都道府県がん対策推進計画の策定が進められている時期であることか
ら、がん対策の計画、施策、評価などのトピックを含んでいる「がん対策の体系」の分
野を中心に聴くことにしました。

 その中から、「カナダにおけるがん対策の活動指標と公表、そして今後」というセ
ッションをご紹介しましょう。次の3つの演題で、5人が発表をしました。(1)「カナダ
の経験:カナダのがん対策における活動指標と医療の質の向上」(ラミ・ラハル氏、ヘ
ザー・ブライアント氏)、(2)「地域の視点:キャンサー・ケア・オンタリオ」(キャ
ロル・サウカ氏)、(3)「オーストラリアの経験:がん対策における連邦と州の取り組
み」(ヘレン・ゾーバス氏、サンチャ・アランダ氏)。2つ目の演題にあるキャンサー・
ケア・オンタリオは、カナダのオンタリオ州のがん対策に関する組織のことです。

 このセッションのテーマは、がん対策に関してプロセス(過程)指標やアウトカム(成
果)指標を計測し、それを一般に公表し、成果の向上という効果を与える活動について
の報告と議論でした。プロセス指標というのは、がん対策やがん医療の活動を示す指標
のことです。カナダの2011年度報告書では、予防領域9種類(喫煙率など)、がん検診領
域2種類(検診率)、診断領域2種類(がん進行度捕捉率、待ち時間)、治療領域8種類
(標準治療順守率など)、死亡率等4種類(罹患率、死亡率、生存率など)という具合に、
合計30種類以上の指標が掲載されています。患者満足度や臨床試験参加率のデータも含
まれています。前年から追加された指標が7つあります。

 カナダ全体ではこうした指標が、州別に全国平均や他州との比較ができるようになっ
ています。年による推移も見ることができます。オンタリオ州では、同様の内容が、病
院別に比較できるようになっています。州間格差や医療機関格差を示すことで、数値の
悪い州や病院が改善への取り組みに奮起し、“均てん化”(全国あまねく質の高い成果
が達成されている状態)への推進力になるだろうというわけです。こうした試みはまだ
発展途上の部分があるとはいえ、体系的に計測、集計、公表が行われていることは大変
興味深く、日本にも参考になると感じました。

 アドボカシー(政策提言活動)に関するセッションや演題も多数あります。ここでは
二つ紹介します。

 「世界と地域のがんアドボカシーをつなげるための戦略とツール」というセッション
では、UICCのDeputyCEO(最高経営責任者次席)であるジュリー・トロード氏の司会によ
り、5つの演題がありました。マレーシアの患者団体の代表のランジット・カウール氏は、
患者の立場でのアドボカシーの経験を踏まえ、自分たちが得たノウハウを簡潔にまとめ、
みんなで共有するために惜しげもなく披露していました。米国がん協会(ACS)のボブ・
チャップマン氏は、「その問題を解決できる可能性が高い適切な当事者を相手に交渉す
ることが大切。相手を間違えば、いくら時間を使って、どれだけ理解を得ても、成果に
はつながらない」と、正しい相手を対象にすることの重要性を強調していました。UICC
では、さまざまなアドボカシーのノウハウを集約して、アドボカシー・ツール・キット
を作成し、ウェブサイトで提供しています。

 「がん対策の中心活動としてのアドボカシー」というセッションでは、ヨルダンのデ
ィナ・ミレド王女の司会により、5人の演者が登壇しました。カナダの医師であるモハン
マド・イスラム氏は、「医療者は目の前の患者の治療に全力を尽くすことが自分の役割
のすべてと考えがちだが、政策によってがん対策のシステムを変えることでインパクト
をもたらすことができる」と力説しました。研究者の立場からアドボカシー活動をする
ソフィー・ジョーンズ氏は、「患者や患者支援者を上手に巻き込むことで、影響力を高
めましょう」と述べていました。

 「世界がん会議」では、各国からがん対策に取り組む多様な関係者が集まって、戦略
を考え、好事例を共有し、インパクトを高めるために知恵を絞っています。このように
経験と知識を共有する取り組みは、世界単位でも、国単位でも、とても大切だと感じま
した。

 次回の2014年の世界がん会議はオーストラリアのメルボルンで開催されます。その次
の16年には日本が名乗りをあげており、モントリオールの会場ではUICC日本委員会がブ
ースを出してPR活動を行っていました。16年といえば国の第2期がん対策推進基本計画
(12~16年)の最終年に当たり、都道府県でも第2期都道府県がん対策推進計画(13~17
年)についての中間評価が終わったころとなり、とてもよいタイミングとなります。関
係者の努力が実って日本誘致が実現し、その場で日本発の成果やインパクトの事例が、
世界に向けてたくさん紹介される・・・。そんなイメージを想像しながら、帰路につき
ました。

 もちろんそのためには、日本のがん対策の現況、好事例、対策とそのアウトカムおよ
びインパクトなどが、国際的に英語でしっかりと説明できる情報が整っている必要があ
ります。2016年の時点で、例えば「日本ではまだ地域がん登録が十分には整備されてお
らず、がんの罹患や死亡の状況はよく分かっていません。がん対策のアウトカム目標は
設定されておらず、評価指標もまだ目途が立っていません」などと言わなければならな
いようでは、寂しい状況となってしまいます。がん政策情報センターとしても、日本の
がん対策の現況が可視化できることについても、微力ながら努力していきたいと思いま
す。(センター長 埴岡健一)

参考サイト

>>世界対がん連合(Union for International Cancer Control)(英語)
http://www.uicc.org/
>>世界がん会議(World Cancer Congress)(英語)
http://www.worldcancercongress.org/
>>カナダの「2011年度がん対策実績報告書」(The 2011 Cancer System Performance Report)
(英語)(1.3メガバイト)
http://www.partnershipagainstcancer.ca/wp-content/uploads/2011-Cancer-System-Performance-Report.pdf
>>カナダ・オンタリオ州「がん医療の質指標2012年」(Cancer System Quality Index=CSQI 2012)(英語)
http://www.csqi.on.ca/
>>UICCアドボカシー・ツール・キット(英語)
http://www.uicc.org/advocacy/tools/toolkit


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[2] がん対策レポート

今回はお休みさせていただきます。
次号をお楽しみに。


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[3] インフォメーション

●格差データ更新情報

「がん死亡率」2010年
http://ganseisaku.net/gap/data/gan/prefectures/shibouritsu/all/2010/all.html

「がん死亡改善率」2010年
http://ganseisaku.net/gap/data/gan/prefectures/kaizenritsu/improvement/2000-2010/all.html

都道府県でみる「がんの医療資源」2012年版随時更新中
http://ganseisaku.net/gap/data/gan/prefectures/doctor/doctor_nintei/2012/all.html


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[4] がん対策トピックス

>>千葉県がん診療連携協力病院について〔9月3日更新、千葉県〕
http://www.pref.chiba.lg.jp/kenzu/gan/kyouryokubyouin.html

>>北海道のがん対策情報〔9月1日更新、北海道〕
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/gantaisakujyouhou.htm

>>青森県がん情報サービス〔9月1日更新、青森県〕
http://gan-info.pref.aomori.jp/public/

>>かながわのがん対策〔8月31日更新、神奈川県〕
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f417303/

>>がんに関する医療〔8月31日更新、愛媛県〕
http://www.pref.ehime.jp/h20180/gan_iryou/index.html

>>香川県 がん対策ホームページ〔8月31日更新、香川県〕
http://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkosomu/cancer/

>>ヒブ・小児用肺炎球菌ワクチン及び子宮頸がん予防ワクチン接種費用の助成について
〔8月31日更新、大分県〕
http://www.pref.oita.jp/soshiki/12200/3vaccine.html

>>『「患者の学校」特別授業 知ってほしい“がん”のこと』のお知らせ〔8月30日更新、岩手県〕
http://www.pref.iwate.jp/view.rbz?nd=137&of=1&ik=1&pnp=51&pnp=94&pnp=137&cd=40988

>>山梨のがん情報〔8月29日更新、山梨県〕
http://www.pref.yamanashi.jp/kenko-zsn/seizinhoken/ganjyouhou.html

>>しまねのがん対策〔8月29日更新、島根県〕
http://www.shimane-gan.jp/index.html

>>みやぎのがん情報ポータルサイト〔8月27日更新、宮城県〕
http://www.pref.miyagi.jp/situkan/gan-portal/top.html

>>がん検診の無料クーポン券をお持ちの方へ(お知らせ)〔8月22日更新、秋田県〕
http://www.pref.akita.lg.jp/www/contents/1345185994562/index.html

>>埼玉県がん対策推進協議会〔8月22日更新、埼玉県〕
http://www.pref.saitama.lg.jp/site/gantaisaku/kyougikai.html

>>がんに関するイベントのお知らせ〔8月22日更新、千葉県〕
http://www.pref.chiba.lg.jp/kenzu/event/ganevent.html


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[5] がん対策ニュース

>>私立学校の禁煙、85%で全国一 4月の文科省調査/栃木県[9月2日、下野新聞]
http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/top/news/20120901/866358

>>がんの早期発見を最重点課題に 次期がん対策推進計画/佐賀県[9月1日、佐賀新聞]
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2276792.article.html

>>相模原市が路上喫煙防止条例施行、指定地区は来春から過料徴収も/神奈川県[8月31日、神奈川新聞]
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1208310021/

>>禁煙治療に助成金制度 行田市、県内初の創設へ/埼玉県[8月30日、埼玉新聞]
http://www.saitama-np.co.jp/news08/30/10.html

>>がん対策 体制強化 県、次期計画策定へ/鳥取県[8月27日、日本海新聞]
http://www.nnn.co.jp/news/120827/20120827001.html

※がん対策関連のニュースは下記にまとめて掲載しております。
http://ganseisaku.net/newsclip/


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マガジンを配信しております。
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今後とも当機構の活動へのご支援を何とぞよろしくお願い申し上げます。

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がん政策レター 2012/09/04(第77号)

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発行人/編集長:埴岡 健一

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