配信日付:2012年10月30日
━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2012/10/30(第81号) ■□ がん政策レター □■ 日本医療政策機構 市民医療協議会 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ がん政策情報センター がん政策レターでは、各地の「がん患者アドボケート」による活動やがん対策 の好事例を紹介し、がん医療の“均てん化”を目指します。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ [1] センター長コラム [2] がん対策レポート [3] インフォメーション [4] がん対策トピックス [5] がん対策ニュース ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ [1] センター長コラム ●がんの5年生存率データを読み解く 10月23日の朝日、毎日、読売、産経、日本経済の各新聞の朝刊に、がんの生存率の数 値に関する記事が掲載されました。読まれた方も多いことと思います。今回はこの記事 の元になったデータから、がんの生存率に関して少し考察してみましょう。これは、「全 国がん(成人病)センター協議会(全がん協)」が発表した5年生存率のデータです。朝 日や毎日は、下記のようなスタイルで掲載していました。ここでは一例として大腸がん を取り上げましたが、これ以外にも胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんに関するデー タがあります。 病院名 生存率(%)、症例数、1期/4期比 北海道がんセンター 64.0、132、0.9 岩手県立中央病院 64.6、337、0.9 宮城県立がんセンター 71.8、274、1.1 山形県立中央病院 81.4、457、2.3 茨城県立中央病院 68.0、186、1.3 栃木県立がんセンター 71.9、335、1.5 群馬県立がんセンター 76.2、379、1.6 埼玉県立がんセンター 70.3、456、1.2 千葉県がんセンター 70.6、258、0.8 がん研有明病院 77.2、712、4.5 都立駒込病院 72.9、661、1.1 神奈川県立がんセンター 72.1、444、1.4 福井県立病院 66.8、318、1.8 愛知県がんセンター 66.4、574、0.9 名古屋医療センター 65.6、328、1.0 滋賀県立成人病センター 71.5、251、2.7 国立病院機構大阪医療センター 73.8、329、1.7 兵庫県立がんセンター 75.1、317、1.8 呉医療センター 73.0、233、1.7 四国がんセンター 75.6、392、1.5 九州がんセンター 74.0、296、1.4 大分県立病院 64.0、149、5.8 ここでの症例数は、その施設での手術症例だけでなく、その他の療法を行ったものも 加えたすべての数です。生存率は、全症例に関する値です。1期/4期比は、症例のうち の病期の構成の様子を示します。数字が小さいほど4期が多く、進行したがんを診る施設 であるということを示すひとつの指標となります。 貴重なデータですので、もう少し掘り下げてみましょう。症例数は132から712まであ ります。多いほどいいのでしょうか。症例数と治療成績は、必ずしも相関するとは限り ません。上記の治療成績は64.0%から81.4%まで差があります。高いほど優れた病院で しょうか。必ずしもそうとはいえません。例えば生存率が同じ70.0%の2つの病院があっ たとしても、1期/4期比率についてA病院が1.0でB病院が4.0ならば、一般にA病院の方が、 成績がよい可能性が高いと考えられます。A病院の方が進行した患者さんをたくさん診な がら、同じ成績を出しているからです。実際のところ、患者の視点からは全症例の平均 生存率はあまり大きな意味がなく、自分のがんの種類の同じ進行度の症例の成績の方が 目安になりやすいのです。実は、この全がん協のデータは、そうしたかたちでも開示さ れています。一例に、大腸がんの3期の場合を見てみましょう。 病院名 生存率(%)、症例数 北海道がんセンター 75.9、31 岩手県立中央病院 62.6、96 宮城県立がんセンター 87.0、94 山形県立中央病院 81.4、133 茨城県立中央病院 63.1、50 栃木県立がんセンター 81.0、102 群馬県立がんセンター 70.4、95 埼玉県立がんセンター 80.6、145 千葉県がんセンター 84.5、74 がん研有明病院 63.8、156 東京都立駒込病院 82.1、193 神奈川県立がんセンター 77.2、146 福井県立病院 67.1、87 愛知県がんセンター 79.9、110 名古屋医療センター 64.9、131 滋賀県立成人病センター 71.6、76 国立病院機構大阪医療センター 67.4、78 兵庫県立がんセンター 81.1、85 呉医療センター 73.9、47 四国がんセンター 83.4、135 九州がんセンター 84.2、59 (※大分県立病院は、大腸がん3期の生存率に関しては症例数が少ないために表示してい ません) 症例数は31から193の幅があります。生存率は、62.6%から87.0%までの違いがありま す。この場合は、同じ進行度の症例の生存率ですから、全症例の数字であったさきほど とは異なり、かなり意味が濃厚となります。生存率が10%程度以上離れている場合は、 成績格差がある可能性があります。ただし、同じ3期といっても患者さんの状況はいろい ろです。がん以外には病気のない人もいれば、糖尿病、心疾患、腎臓病などの慢性疾患 を抱えている人もいます。病院によって高齢者や慢性疾患のある人の比率は異なります。 そうした人を積極的に受け入れている病院は数値が低めになってもおかしくないわけで す。また、この数値は全国約400あるがん拠点病院のうち20余りの施設での症例に過ぎま せん。症例数にしてせいぜい全国の数%程度でしょう。また、この表で低い数値の病院 にいる患者さんが高い数値の病院に移りたいといっても、その病院は数百キロも離れて いるかも知れません。そういう意味では、患者さんの治療選択には、そのままでは使え ない数字といえます。 大阪府では、病院別のがん生存率をもう少し幅広く見ることができます。大阪府立成 人病センターがん予防情報センターの作成したウエブサイトには、大阪府の57のがん診 療病院の5年生存率が、がんの種類と進行度別に掲載されています。例えば大腸がんの進 行度が領域(所属リンパ節に転移または隣接臓器・組織に浸潤)と呼ばれる段階の場合、 これに関するデータのある28病院の比較ができます。生存率は83.9%(症例数137)から 43.5%(症例数111)までの間に分布しています。ここでも先の全がん協のデータのよう に、慢性疾患などをもつ患者の割合が考慮に入っていないので、限界がある数字なのは 同じです。それでも、地域に住む患者さんにとって、地元の主要ながん病院すべて、大 阪府のほとんどの症例をカバーした数値であるため、病院選択の際により参考になるデ ータとなっています。 今回、全がん協が病院別5年生存率を公表したのは大きな意義があると考えられますが、 将来的には大阪府のように、主要ながん治療病院すべての成績が全国で同様に閲覧できる ようになることが期待されます。日本全国のがん拠点病院でそれができるようになるには、 患者の追跡調査がスムーズにできるようにする、地域がん登録法の制定が重要になります。 患者にとっては、こうした5年生存率を読み解くノウハウを身に付けることも大切です。 『がんを生きるガイド』(日経BP社刊)には、「病院別5年生存率の探し方」の項におい て、これに関して次のように要点がまとめられています。 5年生存率を読み解くための10カ条 1.施設別5年生存率を知ろう 2.治療を受ける予定の病院の成績を医師に尋ねよう 3.複数の病院を比較するときには、対象期間などを確認し、できるだけ同じ物差しで比べよう 4.病期(ステージ)で得手不得手がある。自分の病期が得意なところはどこかを見よう 5.追跡率も要注意 6.統計上の誤差も理解して数字を読み取ろう 7.他の医師にも病院の成績や比較の仕方を聞いてみよう 8.他の科との連携など治療成績以外の複数の要素も考慮しよう 9.5年生存率は過去の治療の平均的な結果に過ぎないことを理解しよう 10.納得して病院を選んだ後は生存率を忘れよう こうしたことを頭に入れたうえで、数値が未公表の病院においても、主治医や医療ス タッフと、治療成績について対話をしていくことができるかも知れません。 (センター長 埴岡 健一) 参考リンク >>全がん協加盟施設の生存率協同調査 http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/ >>全がん協生存率(施設別生存率はこの画面の下のボタンをクリック) http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/seizonritu.html >>施設別治療数と5年相対生存率(大阪府) http://www.mc.pref.osaka.jp/ocr/gankyoten/kyoten2.html >>大腸がん(施設別生存率) http://www.mc.pref.osaka.jp/ocr/gankyoten/table/1_1_2.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ [2] がん対策レポート 今回はお休みさせていただきます。 次号をお楽しみに。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ [3] インフォメーション 今回はお休みさせていただきます。 次号をお楽しみに。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ [4] がん対策トピックス >>がん情報サービス[10月26日更新] http://ganjoho.jp/public/index.html >>北海道のがん対策情報〔10月29日更新、北海道〕 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/kth/kak/gantaisakujyouhou.htm >>みやぎのがん情報ポータルサイト〔10月26日更新、宮城県〕 http://www.pref.miyagi.jp/situkan/gan-portal/top.html >>しまねのがん対策〔10月24日更新、島根県〕 http://www.shimane-gan.jp/index.html >>健康推進課がん対策室〔10月22日更新、秋田県〕 http://www.pref.akita.lg.jp/www/genre/0000000000000/1238473618657/index.html >>福島県地域がん登録事業について〔10月18日更新、福島県〕 http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=30859 >>たばこ対策〔10月15日更新、石川県〕 http://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenkou/bunen/index.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ [5] がん対策ニュース >>県のがん対策推進条例案まとまる/和歌山県[日高新報、10月28日] http://www.hidakashimpo.co.jp/news/2012/10/post-4708.html >>喫煙で寿命10年縮まる 日英、日本人を60年以上調査[10月26日、朝日新聞] http://www.asahi.com/science/update/1026/TKY201210260116.html >>受動喫煙防止フォーラム 11月に横浜情報文化センター[10月24日、産経新聞] http://sankei.jp.msn.com/region/news/121024/kng12102418440005-n1.htm >>国がん、視覚障害者向け情報提供で協定締結-堺市立障害者センターと[10月23日、CBNews] http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121023-00000005-cbn-soci >>がん生存率:治療開始後5年、最大33ポイント差-国公立28専門病院[10月23日、毎日新聞] http://mainichi.jp/select/news/20121023mog00m040003000c.html ※がん対策関連のニュースは下記にまとめて掲載しております。 http://ganseisaku.net/newsclip/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センターでは定期的にメール マガジンを配信しております。 配信の停止をご希望の方は、下記事務局まで、連絡してください。 今後とも当機構の活動へのご支援を何とぞよろしくお願い申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ がん政策レター 2012/10/30(第81号) 発行所 :日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター 発行人/編集長:埴岡 健一 住所 :〒102-0083 東京都千代田区麹町2-10-10-101 Tel :03-3222-6532 Fax :03-3222-6535 E-mail :gan_newsletter@hgpi.org Web :http://ganseisaku.net/ http://www.shimin-iryou.org/ Copyright(c) 2012 日本医療政策機構 市民医療協議会 がん政策情報センター ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●がん政策レターのバックナンバーは下記URLよりご覧ください。 http://ganseisaku.net/impact/mailmagazine/gan_/ ●がん政策レターを購読ご希望の方は下記URLにアクセスしてください。 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