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欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会 研修ツアーレポート

 学術集会の会期中に、欧州の患者団体と面談する機会を得ました。

国際腎臓がん連合(IKCC)のワーデンバーグさんと共に:欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会 研修ツアーレポート  国際腎臓がん連合(IKCC:International Kidney Cancer Coalition)と欧州サルコーマ(肉腫)患者連合(Sarcoma Patients EuroNet)のメンバーであるマーカス・ワーテンバーグさんからは、患者団体について、とりわけ欧州各国における国と国との連携の仕方や、団体の運営方法について話を聞くことができました。国際的な視点でみると、別の国であっても同じ問題や困難さを抱えており、共通点がある。情報を共有し、一緒になってより力をあわせて活動すること、つまりネットワークづくりが重要となり、団体の運営については明確な理念や声明、ルールを設定することが重要であるとい うことを聞きました。「稀少がんの患者団体や腎臓がんの患者団体などの連合体が、企業経営と同じような運営方式をとって確実に成果をあげていることが印象的だった」と若尾さんは言います。

欧州女性肺がん連合(WALCE)のヴァローネさんとロンチェッタさんと共に:欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会 研修ツアーレポート 欧州女性肺がん連合 (WALCE:Women Against Lung Cancer in Europe)のステファニア・ヴァローネさんとラファエラ・ロンチェッタさんにもお話を聞くことができました。イタリアにおいて、女性の肺がん罹患数が増えていること、その一方で支援がまだ十分になされていない現状があることが共有されました。この現状を受けて、医療提供者と協働して女性肺がん患者に対する支援を行うことになったと聞きました。肺がんに関する情報提供や相談支援のみならず、女性ならではのメイクやリラクゼーションの講習会など、様々なイベントについての話もありました。吉田さんは、こう振り返ります。「医療関係者とうまく協働して患者をサポートしている点が参考になった。女性の肺がんに 特化し、医療者を含めスタッフも全員女性ということで、患者本人の気持ちに合ったきめ細やかなサポートができるのではないかという印象を持った」。

欧州乳がん連合(EUROPA DONNA)のオフィスにて:欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会 研修ツアーレポート  欧州乳がん連合(EUROPA DONNA / the European Breast Cancer Coalition)のロザンナ・ダントナさんとスーザン・ノックスさんからは、乳がんに関連するアドボカシーの内容や実施している意識調査、団体の運営方法について話を聞きました。海辺さんは「アメリカにおける乳がん団体のアドボカシーの成功体験を参考にして活動し、EUの議会に対して影響力を持ち躍進中であるということを感じた。EU議会において実施が約束されたプランが、計画通り進行するかという点や、EUの各国間で格差が生じることはないかといっ た点など、今後も動向を見守りたいと感じた」と言います。

 今回、面談した3つの団体以外にも、患者セミナーでは欧州がん患者連合(ECPC:European Cancer Patient Coalition)など、さまざまな団体のアドボカシー活動についての情報共有することができました。欧州においても、今まさに多くの患者団体がお互いに交流し、良い刺激を与え合いながら活発に活動している様子を目にしました。

  イタリアでトップクラスのがんセンターといわれる欧州がん研究センター(IEO:European Institute of Oncology)の見学をする機会にも恵まれました。同センターでは日帰り手術と外来化学療法に力を入れており、2棟ある建物のうち、1棟はすべて外来にあてています。また、同センターで治療する患者の検体はすべて保管されており、院内のがん登録の制度もしっかり整っているとのことでした。待合室や入院 するための部屋、採血室なども見学することができました。

欧州がん研究センター(European Institute of Oncology)の正面玄関:欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会 研修ツアーレポート院内の待合室の様子。カラフルな椅子が特徴的:欧州臨床腫瘍学会(ESMO)学術集会 研修ツアーレポート

   「イタリアでがん患者が入院する場合、公的保険により自己負担なしでバス・トイレ付きの2人部屋に入院できるという点は日本より進んでいるように感じた。患者から得た検体(被検査物)は、研究のために過去のものをすべて保管しているということにも感銘を受けた」(海辺さん)、「合理的な施設設計と運営で、患者満足度を高めつつ採算の合う病院経営をしていると感じた。また、乳がん患者については、基本的にはすべての人が乳房を再建すると聞いたことが特に印象に残った」(若尾さん)と、見学からも多くのことを得ました。

ツアーを通して得たアドボカシーの原動力

 すべてのプログラムを終えた後、今回の研修ツアーに参加した3人に、感想をうかがいました。

  「欧州という大きな単位の中で、各国のがん医療やがん対策の質の均てん化を図ろうとしているとの印象を持った。学術集会には日本を含め、世界中から参加者が集い、世界からの期待度の高さを感じた。ぜひ、アドボケートという立場の登壇者として患者セミナーに出てみたいと思った」と吉田さんは今後の抱負を語ります。また、吉田さんはこのように付け加えます。「日本でも地域格差を減らし、各都道府県で同等にがん対策に参画できることが重要。それには県単位、そして国単位での目標を共有する必要がある。欧州で国の間の差をなくそうとしていることと、日本で県の間の差を解消しようとしていることは、同じようなことなのではないかと感じた。今後は沖縄という県単位と日本という国単位の意識の差を狭めていきたい。そのために、各県の情報を収集し、連携を強めていきたい」。

 若尾さんは「学術集会では特に、グローバルな視点で、他の学会との連携がなされており素晴らしいと思った」と語ります。国際的な学術集会に参加し、様々な国や学会との連携の重要性を強く感じていました。また、さまざまな患者団体の活動について聞いたことで、「患者団体としてのミッ ションやビジョン、戦略があることが重要と感じた。会の運営に役立ち、社会に貢献するような事業計画を意識していきたい。また、今回見学した欧州がん研究センターについて、山梨県の医療機関で会議が行われるような際に情報を共有したいと思っている」と、イタリアにおける好事例を自身の地元で共有するという意欲を語りました。

 海辺さんは、「米国臨床腫瘍学会(ASCO:American Society of Clinical Oncology)や国際対がん連合(UICC:Union for International Cancer Control)など、がんに関連する国際会議や日本の学術集会、そして今回のESMOに参加したことで、学術集会の特徴が把握できた」と今回のツアーを 振り返りました。特に、患者団体の運営について「組織は非営利でも、運営は営利組織のように事業計画や経営がしっかりしている。事務局幹部がかならずしも患者ではなく、例えば企業に勤めた経験のある方のようだ。運営についても、よい意味でプロフェッショナルになる必要があると感じた」と、海外の患者団体の現状から感じ、日本でも活かすことができる点をまとめていました。

 世界的な学術集会への参加を通して、参加者3人は、アドボカシー活動の原動力となるさまざまな発見を遂げ、ミラノを後にしました。

[関連サイト]

ESMOホームページ(英語)
http://www.esmo.org/

35th ESMO Congressホームページ(英語)
http://www.esmo.org/no_cache/events/milan-2010-congress.html

IKCCホームページ(英語)
http://www.ikcc.org/

WALCEホームページ(英語)
http://www.womenagainstlungcancer.eu/EN/index.php

EUROPA DONNAホームページ(英語)
http://www.europadonna.org/EuropaDonna/home.aspx?id_sito=5&id_stato=1

IEOホームページ(英語)
http://www.ieo.it/ricerca/inglese/deo.shtml

更新日:2011年01月06日

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