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中間評価の指標づくりの一環として「患者体験パイロット調査」実施へ
「がん対策推進基本計画の全体目標にあるQOL(生活の質)の向上、安心して暮らせる社会の構築に寄与する評価を行う上で、既存で活用できる資料が少ない。まずは、病院における患者さんの体験に注目して、平成25年度前半に約10施設で患者体験パイロット調査を行い、最終的な指標の作成に寄与する大規模な調査につなげていく予定です」
厚労省の「がん対策を評価する枠組みと指標の策定に関する研究班」(主任研究者/東京大学保健社会行動学教授・橋本英樹さん)の宮田さんが発表した患者体験パイロット調査の内容は、大きく下記の10項目。(1)受診までの経緯(2)診断に至る検査等について(3)診断確定時の説明について(4)治療方針決定過程について(5)情報サポートに関して(6)入院中のケアに関して(7)入院中の治療に関して(8)退院前コミュニケーションに関して(9)外来・通院中のケアに関して(10)その他全般項目に関して。
それぞれの項に2~11個の細かい質問を設け、計50問が挙げられました。パイロット調査を元に調査の内容を検討し、今年度後半から大規模調査を実施していく予定です。
なお、同研究班ではこの患者体験パイロット調査とは別に、2015年6月に実施される中間評価の枠組みを検討中であり、その内容が期待されます。
除痛率の指標の活用を求める声も
会長代理で、特定非営利活動法人グループ・ネクサス理事長の天野慎介さんは、別の研究班で検討が進められている、除痛率について進捗を確認するとともに、中間評価における活用を求めました。「患者のQOL指標については、中間評価にこの指標を使った評価を行うことが大事。また、別の研究班が担当になっている分野ですが、基本計画の中で重要な緩和ケアを測る指標として除痛率は不可欠な指標と考えており、ぜひ、中間報告で活用可能となるように整備して頂きたい。」また、「この協議会で2期4年間委員を務めてきましたが、除痛率に関しては毎年研究中という回答をいただいています。いつごろに指標ができるのか、そろそろ結果を出して欲しい」と付け加えました。
同協議会では、厚生労働省が実施した都道府県がん対策推進計画に関するアンケート調査の結果も発表されました。今年2月時点の調査ですが、47都道府県が4月までに計画の見直しが終わると回答。全体目標の年齢調整死亡率の削減については、国と同じ10年で20%減を目標にしているのは39都道府県、残りの8都道府県は国とは異なる目標値を設定しています。
県による差が出たのが、希少がん対策とリハビリテーションに関する取り組みです。22都道府県が小児がんを除いた希少がん対策を計画に入れていませんし、リハビリテーションに関する取り組みを記載していないのは12都道府県に上りました。また、たばこ対策として、2都道府県が成人喫煙率の目標値が未設定であり、11都道府県が受動喫煙の目標値を設定していません。こういった状況に対し、「各都道府県の計画が出された時点で、国の基本計画に載っている対策が盛り込まれていない都道府県名を公表してほしい」(天野さん)といった意見が出ています。
切れ目のないがん対策推進へ次の患者委員にバトンを
協議会委員の任期は再任される場合もありますが基本的に2年です。任期を終えるにあたり、5人の患者関係委員が今後のがん対策への要望や期待を表明しました。
天野さんは、「今後のがん対策の推進に関する意見書」を提出。(1)基本計画の中間評価に向けた評価指標の確立(2)基本計画の推進における「積み残し」課題の解消(3)各地域の実情にあったがん診療提供体制の検討と診療内容等の公開(4)全てのがん患者の身体的、精神的、社会的な痛みの軽減に向けた施策の推進(5)がん対策推進協議会と他の検討会、厚生労働省内および省庁間連携の推進――の5点を要望しました。
特定非営利活動法人ミーネット理事長の花井美紀さんは、「がん診断時からの相談支援およびピア・サポートの充実は、緩和ケアの領域の問題でもあるとの認識が必要と思います」と強調。アメリカで生まれた「がんサバイバーシップ」(発病し、がんと診断されたときからその生をまっとうするまでの過程をいかにその人らしく生き抜いたか)に触れ、「日本なりのサバイバーシップを普及する必要がある」と話しました。
特定非営利活動法人周南いのちを考える会代表の前川育さんは、「計画だけではなく現場がどうなっているか知ることが大事」とし、がん診療連携拠点病院における実際の「がんと診断されたときからの緩和ケア」の実施状況や相談支援センターの実態を、視察・査察する部門の設置を求めています。
さらに、特定非営利活動法人パンキャンジャパン理事の眞島善幸さんは、「未承認薬のドラッグ・ラグはかなり短縮しましたが、マイナーながんへの適応拡大は遅れています。今後は適応外薬問題にも光を当ててもらいたい。希少がんが日本ではがん登録がないためにどのくらいいるのか分かっていません。今後はがん登録を進め、ぜひ、日本全国にいらっしゃる希少がん患者さんの対策が講じられることを期待したいと思います」と訴えました。
特定非営利活動法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長の松本陽子さんは、「がんの教育は大事ですが、あまりにもがんにならないための教育に比重がかかり過ぎてしまうと、がん患者への差別、偏見につながるのではないか。厳しい病気に向き合うことになったときに、自分らしく生き抜く力を身に着けることこそ重要ではないか」と発言。「これまでのがん対策は救える命を救うということに重点を置いてきてそれについては一定の成果が表れてきていますが、せっかく助かった私たちの命は助けられているのかとの声があります。私たちのように助かったものも経済的負担、就労の問題、差別や偏見に未だに苦しめられています。そういった点でも今後の議論に期待したい。受け取ったバトンを次の患者委員に渡したいと思っております」と結びました。
最後に、協議会会長でがん研究会有明病院院長の門田守人さんがこう話し、閉会しました。「第2期にはがんに負けない社会を作るという大きな転換を図り、すばらしい計画ができました。第1期がどちらかというと量的な目標だったのに対し、2期では質は問う方向へ動きました。今日発表されたパイロット調査の内容はまだ不十分なところもあるかもしれませんが、この協議会の決定事項として量から質への転換を測る第一歩を踏み出せたのは皆さんのご協力のお陰です」。(医療ライター・福島安紀)
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