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第28回がん対策推進協議会

第28回がん対策推進協議会が、11月21日、厚生労働省内で開かれ、来年度から始まる次期計画の骨子案の一部を協議。がん予防・検診、就労・経済負担、サバイバーシップについての集中審議も行われ、次期5カ年計画の審議は大詰めに入っています。

 「がん患者の社会的な痛みに関しては、就労問題、経済的負担の軽減、サバイバーシップ、がん教育など、がんの患者さんを社会全体で支えていくという仕組みが必要。この部分は、現計画に全く抜け落ちていた部分です。例えば、『がんになっても安心な社会の構築』といった社会的痛みの軽減を全体目標に入れていただきたい」(NPO法人グループ・ネクサス理事長・天野慎介さん)

 第28回がん対策推進協議会では、これまでの議論を踏まえて、厚生労働省がん対策推進室が次期がん対策推進基本計画の全体構成案と骨子案を提示。委員からは、前回の計画を見直し、社会的痛みと精神的痛みの軽減に力を入れるべきとの意見が相次ぎました。

 同協議会会長でがん研有明病院副院長の門田守人さんも「全体目標については、現計画の2項目に加え、社会をターゲットにしたものを3つ目に加えていく」と発言しており、計画の全体目標には、社会的痛みの軽減を目指した新項目が入る見通しです。

  就労問題、経済的負担の解消が不可欠


 また、「分野別施策及びその成果や達成度を計るための個別目標」には、新たに「医薬品・医療機器の早期開発・承認に向けた取組」、「小児がん」、「がんの教育」、「がん患者の就労を含む社会的な問題」の4項目を入れることで合意。重点的に取り組む課題や分野別施策の項目については、次のような意見が出ており、12月12日の次回協議会でも、引き続き議論される予定です。

 「重点的に取り組む課題にドラッグ・ラグ、特に適応外薬のラグの解消を入れていただきたい。それから、難治がん、希少がんというキーワードを入れてほしい」(NPO法人パンキャンジャパン理事・眞島喜幸さん)、「がんの医療にはリスクが伴うという観点から『安全ながん医療の提供』を分野別施策に入れていただきたい」(九州大学大学院外科学講座消化器・総合外科学分野教授・前原喜彦さん)

 就労問題・経済負担の軽減、サバイバーシップについては、集中審議が行われました。

 「現在、16府県でがん対策推進条例が定められていて、新たに条例を定めようとしている県があります。例えば、京都府の条例には、従業員ががん患者になったときに勤務を継続しながら治療、療養できる環境、従業員の家族ががん患者となった場合に勤務を継続しながら看護することができる環境の整備に努めるという内容が含まれています。経済的負担の軽減についても大阪府の条例で定められています。国としても、最低限、こうした方向性を打ち出すべきです。また、厚生労働省内で就労問題に関して制度的な検討会を立ち上げ、継続的に考えていただきたい」(天野さん)

 「私も12年前にがんの告知を受けましたが、12年経っても精神的な痛みを抱えています。小児がんの体験した方のように長きに渡って就労がしづらいなど、社会的な痛みは長くがんを経験した人を苦しめるものですので、協議会としての明らかな姿勢を打ち出していくことを強く希望します」(NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長・松本陽子さん)

 がん患者への就労支援、不当な就労差別撤廃を次期計画の中で強く打ち出す意見に異論はなく、就労問題や経済的負担の軽減が、次期計画の目玉の一つになりそうです。

  終末期の療養生活の質を評価するために遺族調査が必要


  一方、がん検診に関する集中審議では、参考人として、国立がん研究センターがん予防・検診センター検診研究部長の斎藤博さんが、科学的根拠に基づいたがん検診の実施と精度管理の重要性を訴えました。

 厚労省は、がん検診受診率50%達成を目指して乳がんと子宮頸がんの検診の無料クーポンを2009年より配布。2010年国民生活基礎調査によると、検診受診率は乳がん24.3%(前年比4ポイント増)、子宮頸がん24.3%(同3ポイント増)で、やや上昇しています。がん対策推進室長の鷲見学さんは「無料クーポンの実施は一定の効果があったと考えています」と一定の評価を示しましたが、2010年のクーポン利用率は、年齢別に最も利用率の高かった子宮頸がん35歳でも29.2%(前年比3.6ポイント増)、最も低かった子宮頸がん20歳は11.9%(同2ポイント増)と低調です。兵庫県洲本市健康福祉部健康増進課保健指導係の北岡公美さんは、実際に自治体のがん検診を担当する立場から、「継続的な受診勧奨としての効果には疑問がある」と指摘しています。


がん患者の療養生活の質の評価について解説する宮下参考人
がん患者の療養生活の質の評価について解説する
宮下参考人
 さらに、「がん対策指標」についてのヒアリングでは、厚労省の「がん対策に資するがん患者の療養生活の質の評価方法の確立に関する研究」班の班長である宮下光令さん(東北大学大学院医学系研究科教授)が、厚生労働省が3年に一度実施している受療行動調査に、「からだの痛みがある」、「気持ちがつらい」などの新規項目を追加し、がん患者の療養生活の質の評価を始めたことを報告。「ただ、これだけでは終末期がん患者の療養生活の質を評価することは困難です。日本でも、死亡小票からサンプリングする形の全国規模な遺族調査を経年的に実施しモニタリングしていくことができるのではないか。遺族調査で遺族のQOL(生活の質)も測定できるのも利点だと思います」と提案しました。


後藤参考人(左)と東参考人(右)
後藤参考人(左)と東参考人(右)
 日本消化器外科学会データベース委員会委員長の後藤満一さん(福島医科大学臓器再生外科学講座教授)は、日本消化器外科学会の認定・関連施設の手術症例数と死亡数、合併症発生数を集積した「ナショナル・クリニカル・データベース」(NCD)について発表。委員からは施設別のデータの公表を求める声が出ましたが、「データ公開は慎重にならなければならない。悪い方向の使い方が出てはいけないので、施設別のデータの公開は考えていませんでした」と回答しています。

 「がん対策の指標」に関しては、この他、東京大学医学系研究科公衆衛生学健康医療政策学准教授の東尚弘参考人より考え方が示されました。次回協議会で、集中審議を実施する予定です。
(医療ライター・福島安紀)

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(更新日付:2011年11月28日)

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