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第26回がん対策推進協議会

第26回がん対策推進協議会が、10月20日、都内で開かれ、次期がん対策推進基本計画(以下、がん計画)の策定へ向け、在宅医療とチーム医療についての集中審議を行いました。「がん登録」についてのヒアリングも行われ、日本のがん登録の課題が浮き彫りになると共に、「がん登録を進める患者側のメリットは何か」を明確に示して行くことの重要性を訴える意見が相次ぎました。


 「緩和ケアの専門診療所が必要です。がん患者の不安の最たるものは病院から在宅へ移るときではないかと思います。私たちが一番欲しいのは安心です。緩和ケアに特化した診療所が核となって、そこが人材の育成まで担っていくことが重要ではないでしょうか」(NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長・松本陽子さん)

 患者関係委員らがこのように発言し、在宅医療とチーム医療に関する集中審議では、パリアンクリニック川越院長の川越厚さんが提案した「緩和ケア専門診療所」(仮称)の整備を促進する案に、賛成を表明しました。

 緩和ケア専門診療所は、がんの緩和ケアについて専門的な知識と経験を持ち、がん患者の緩和ケアと看取りを担う診療所のことです。川越さんは、次期がん計画では、緩和ケア専門診療所の数、在宅死率を地域緩和ケアの普及の評価指標とし、総合的な整備目標を設定することを求めています。

 これに対しては、専門診療所だけではなく、地域の一般の診療所が積極的にがん患者の緩和ケアに関われるような仕組みづくりの必要性を訴える意見も出ています。「緩和ケア専門診療所を中心にがん患者の在宅医療を進めることが理想かもしれないが、過疎化や人材不足などでそれができない地域もある。新たな地域格差を生まない策が求められている」(日本医師会常任理事・保坂シゲリさん)

  がん患者の要介護認定のスピード格差の是正を


 また、がん患者が在宅療養をする際に問題となっているのが、介護認定の遅さと、「要支援」「要介護1」と判定されると特殊寝台などの福祉用具の貸与が受けられないといった点です。厚生労働省は、都道府県と市町村に対し、2010年4月には末期がんの人の要介護認定の迅速化を求めました。しかし、千葉県で患者支援活動を行っているNPO法人ピュアが行った調査では、その対応には自治体によって温度差がある現状が浮き彫りになっています。

 「末期がん患者の介護認定の迅速化とがん患者の実情に合った要介護認定が行われるように制度の改正に向けての検討をしてほしい」。協議会会長代理の天野慎介さん(NPO法人グループ・ネクサス理事長)ら患者関係委員5人は、同調査の結果を受けて、改めて、がん患者に対する介護保険の適正化を求めました。

 一方、前回、集中審議を行った化学療法、ドラッグ・ラグについては、各委員の意見が集約され、「未承認薬」「適応外薬」を分けた形でのドラッグ・ラグの解消、そしてデバイス・ラグ(医療機器承認の時間差)の改善が次期がん計画の重点項目に盛り込まれることになりました。国立がん研究センター理事長の嘉山孝正さんは、「ドラッグ・ラグを解消のためには『哲学』が必要。臨床試験で最初に人に治験薬を投与するファーストインヒューマンを積極的にやるというのは、海のものとも山のものとも分からないものを国民の誰かが投与されるということです。全部に効果があるわけではない。それに耐えられるような文化を国民と医療人が一緒に育てていかないといけない」と強調しています。

  大都市東京のデータがない現在の「がん登録」


 がん登録に関するヒアリングでは、現時点では、東京都、宮崎県以外の45都府県1市で地域がん登録が実施されているが、道府県によって精度に差があり、患者の予後を調査するための住民票の照会に応じない自治体もあることが報告されました。また、地域がん登録は道府県単位で行われており、「他県の病院で亡くなった場合には死亡者の確認が取れない」といった現在のがん登録の限界も示されています。

 この状況を打開するために、複数の委員から、次のように、がん登録の法制化を求める声が上がっています。「福島の原発事故が起こって、これからがんの人が増えるかもしれないというときに、がん登録が整備されておらず現時点でのがん患者が正確に何人なのかという基礎的なデータもない日本では、将来に大きな禍根を残すことになるのではないか。そういった視点からもがん登録の法制化を考えてほしい」(天野さん)

 しかし、「法制化のためには、がん登録が、生きている人にどんなメリットがあるのかもっと分かりやすく示す必要がある」との意見もあり、がん登録の本格的な整備には、まだ詰めるべき点が残されているといえそうです。

 さらに、同協議会では、厚労省が、2012年度がん対策予算として、前年の1.2倍の415億円(11年当初予算343億円)を概算要求したことを報告しました。

 12年度は、現在検討されている次期がん対策推進基本計画の初年度に当たる大事な年です。新規事業として、小児がん拠点病院の整備費と強化事業費(小児がん対策計7億円)、在宅緩和ケアを行う医療機関のリスト作成、研修費用として在宅緩和ケア地域連携事業費(3.6億円)、抗がん剤など難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究経費(30億円)などが要望されています。「がん診療連携拠点病院機能強化費」が前年から3.5億減の30.8億円となるなど、減額されるものもあり、今後の行方を注視する必要があります。

 なお、厚労省健康局長の外山千也さんは、この日、がん対策推進室と生活習慣病対策室を統合し、「がん・健康対策課」を新設する方向で検討を進めていることを表明。また、がん計画策定の議論が遅れていることから、11月21日に予定されている協議会で、これまで議論された部分のみ、次期がん計画の暫定骨子案をまとめる方針を示し、了承されました。

 次回の協議会は11月2日、がん研究に関する専門委員会の報告とがん登録についての集中審議、検診、予防、就労・経済的負担のヒアリングが行われる予定です。 
(医療ライター・福島安紀)

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(更新日付:2011年10月31日)

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