平成23年度がん対策に向けた提案書を承認 制度面への改革へ一歩踏み出す |
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会議の冒頭では、2010年1月に大腸がんで亡くなった前委員の金子明美さんに対し、哀悼の意を表し、傍聴者も含め出席者全員で黙とうを捧げました。
「提案書とりまとめワーキンググループ(以下、WG)が実施したアンケートやタウンミーティングでも、『金の切れ目が命の切れ目になっている』との声が多くあがっています。医療者からも、『自分は患者の命を救っているのか、がん患者の生活を破壊しているのかわからない』という声が聞かれました。ぜひ、がん患者の経済的負担の軽減をこの協議会の議論の場でも、重要な視点として取り上げていただきたい」
この日、前委員を含む7人の患者委員が、会長の垣添さんに、長期療養患者の治療費助成などを求める「がん患者の経済的負担の軽減に関する意見書」を提出しています。
拠点病院の指定要件見直しの方向 |
今回の協議会の大きな目玉は、WGが作成した『平成23年度がん対策に向けた提案書~みんなで作るがん政策~』に対する協議です。WGでは、全国6カ所でタウンミーティングを開催したほか、都道府県がん対策推進協議会等委員にアンケートを実施し、全国のがん患者・家族、医療提供者、行政担当者などの意見を集め、提案書をまとめました。
約1000人から集めた約7500件の意見を、議論を重ねたうえで、「『予算』に関する74本の提案例」、「『診療報酬』に関する29本の提案例」、「『制度』に関する37本の提案例」に分類しています。また、予算に関しては、下表のように、優先度の高い9つの施策が挙げられました。
予算に関する提案で優先度の高い9つの施策 |
(1)緩和ケアを担う施設などの拡充事業
(2)長期化学療法に関する医療費助成事業
(3)専門・認定看護師・薬剤師等育成配置支援センター事業
(4)副作用・合併症に対する支持療法のガイドライン策定・普及事業
(5)地域がん登録・全国集計活用事業
(6)がんベンチマーキングセンター事業
(7)患者・家族のためのがん総合相談支援事業
(8)がん患者満足度調査事業
(9)サバイバーシップ事業
09年に同WGが提出した『平成22年度がん対策予算に向けた提案書~元気の出るがん対策』は、予算への提案が中心でしたが、2年目となる10年は、診療報酬改定、そして、がん対策基本法の改正や医療法改正など制度改革に向けた提案を加えたのが特徴です。WGとりまとめ責任者で当センター長の埴岡健一は、その内容を説明し、次のように強調しました。
「平成22年度は、5カ年のがん対策推進基本計画の4年目に当たりますが、患者・家族、医療現場、地域では、がん対策が大きく進展したという実感がないのが現状です。『がんによる死亡の削減』、『がんによる苦痛の除去』という基本計画の2つの目標を達成するため、がん対策を大きく変革する必要があります。実際の問題解決には予算だけではなく、診療報酬や制度面の改革とセットで考えなければなりません」
今回の提案書では、がん診療連携拠点病院制度(以下、拠点病院制度)の抜本的見直しが盛り込まれました。
会議では、会長の垣添さんからも、拠点病院についての議論の中で、「拠点病院は、全国的におおよそ整備されましたが、今後は質が問われる。難しい問題だが、質をどう評価するかを入れていく必要がある」と言及がありました。がん対策推進協議会を中心に、今後、国のがん対策の柱である拠点病院制度の指定要件の見直しが加速しそうです。
WGの出した提案書は、同協議会で審議の上、がん登録に関する提言を付け加えることで承認されました。
『患者必携』10月から新規がん患者に配布 |
一方、国立がんセンターのがん対策情報センター長補佐の若尾文彦さんは、同協議会の提案で作成した『患者必携』の配布を、2010年10月から開始すると報告。対象は、新たにがんと診断された患者で、配布や問い合わせ体制の整った拠点病院から順次配布をスタートする予定といいます。
委員からは、「新規患者だけではなく、すでに治療中の患者にも、希望があれば配布してほしい」(読売新聞社社会保障部の本田麻由美さん)との意見が出され、新規患者以外でも入手できるように、配布の仕方を検討することになりました。
ところで、がん対策推進基本計画では、「治療の初期段階からの緩和ケアの実施」が重点課題としてうたわれています。その進捗状況を表す指標として、10年2月28日現在、緩和ケア研修は全国で533回開催され、1万1129枚の修了証書が交付されたと報告されました。
これに対し、患者関係委員からは、「ただ出席すれば研修の修了証をもらえる研修では、実際の臨床の場に役立つのか疑問です。研修の内容について、患者の意見も入れてほしい」(がんサポートかごしま代表の三好綾さん)、「受講者の数が増加しているのは評価できますが、実際のロールプレイに患者体験者を入れるなどの工夫が必要」(NPO法人周南いのちを考える会代表の前川育さん)といった意見が出ました。
実際に研修を担当している東京大学医学部放射線科准教授の中川恵一さんは、「内容はよいところがありますが、研修会には患者がいない。患者会の方にもぜひ参加していただきたい」と応じており、研修への患者の参加が現実のものとなりそうです。
さらに、がん対策推進基本計画の中間報告(案)については、「がん対策の進捗状況の評価指標は、死亡率の減少、拠点病院の整備といった定量的な指標だけでよいのか」との意見も強く、再度、協議会を開催し最終的に審議されることになりました。単に、データが出しやすい数値目標ではなく、患者・家族の視点に立った評価指標の設定が求められています。
(医療ライター・福島安紀)
(医療ライター・福島安紀)
※報告内容は、当時のものです。