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提案書取りまとめワーキンググループ(第6回、第7回)

  がん対策提案書“みんなで作るがん対策”誕生までのカウントダウン


2008年、厚生労働省がん対策推進協議会は「提案書取りまとめワーキンググループ(以下、WG)」を設置し、国のがん対策に関する予算提案書を作成。提案書は同協議会で審議承認のうえ、2009年3月に舛添要一・厚生労働大臣(当時)に提出され、大きな反響を巻き起こしました。10年はさらに、予算・診療報酬・制度の3本柱による総合的な提案書が、3月11日に同協議会に提出される予定です。今どのような経緯をたどって成案に近付いているのか、第6回第7回のWG公開会議の模様と共にお伝えします。


 2010年2月17日および3月1日、国立がんセンターにて「厚生労働省がん対策推進協議会 提案書取りまとめワーキンググループ」の初の公開会議が行われました。同WGは、平成23年度の国のがん対策への提案を行うため、09年6月に設けられたものです。がん対策推進協議会委員20人のうち14人がWGに参加。メンバー構成としては、患者関係者代表委員5人、医療提供者代表委員7人、有識者委員2人であり、当センター長の埴岡健一が取りまとめ責任者を務めています。

提案書を舛添要一・前厚生労働大臣へ提出(2009年度)
 このWGは、08年度にも設置され、09年2月にはがん対策推進協議会へ『平成22年度 がん対策予算に向けた提案書~元気の出るがん対策~(案)』を提出しています。この案は、同協議会で審議承認され、一部修正のうえ成案となり、09年3月には舛添要一・厚生労働大臣(当時)に提出されました。その実績に鑑み、09年度にも設置されたという経緯があります。

 厚生労働省という名を冠したWGではあるものの、いわゆる省庁による通常のWGとは、かなり性格を異にしています。まず、厚労省の担当者は、会議の傍聴は行うものの、完全にオブザーバーに徹しており、会議の招集、議題の設定、当日資料の作成、議事運営、資料の取りまとめ等は、すべてWGが主導しています。また「国の政策は、国のみならず、国民皆で作りましょう」という方針を掲げ、提案書策定にあたっては現場主義を一貫しています。

 そこでWGでは、このため提案書は、各都道府県のがん対策推進協議会委員・がん診療連携協議会委員、および各都道府県のがん対策担当者などを対象に実施したアンケート(有効回答者数520人、延べ回答数2482コメント)、および全国6都市に赴いてイベントのような形で市民の声を聞くタウンミーティング(以下、TM)(参加者総計579人)などを通して、を実施。現場の生の声を吸い上げ、この意見集についてWG全委員がこの意見集に目を通したうえで問題抽出課題の抽出を行いました。その後、数回にわたる会議やメーリングリスト(以下、ML)により議論を重ね、推奨施策をまとめていくというプロセスをとっています。また通常の会議の場合、声の大きい人や立場の強い人の意見が重点的に反映されてしまうことが起こりがちですが、こういった事態を避けるために、「意見集約シート」というものを用いて、重要な決定事項がある場合には、全員が平等に意見を提出して取りまとめられるような仕組みを講じています。

  様々な立場による率直な意見交換が展開
 初登場となる制度施策はやや難航



 このような経緯のもと、2月17日に開催された第6回会議では、初めて公開の審議が行われました。埴岡が、「このWGでは、現場で聞いた問題やアイデアについては、極力、実現していく。つまり『岩だから動かない』ではなく『岩を動かせば変わる』という気概で取りまとめています」と傍聴席にも説明しているように、現場の切実な問題解決に向け、委員がそれぞれの見地から率直な意見を交わしあい、知恵を絞り、おおいに試行錯誤しながらの検討となりました。

第6回 提案書取りまとめワーキングの議論の様子
 冒頭では、これまでの意見収集の経緯を振り返って、患者関係者委員の郷内淳子さんが「意見集を読むのは大変だったけれども、医療者、患者、行政、それぞれの声を読ませて頂いて、きちんとがん対策をやらなければならないという声が各地で高まっていると感じました」と発言。国立大学法人 広島大学 自然科学研究支援センター長の檜山英三さんからは「TMでは患者、医療者、行政の意見がひとつの方向に向いていると実感できて、すごくよかった。そういうものを上手に吸い上げていくのが我々の役目なのだと思っています」と感想が寄せられました。埴岡からは「いくつかのTM会場で終了時に、『今日来てよかったですか?』と聞いたところ、前から見える限り全員の方が挙手して頂いて、皆さん高揚した雰囲気で帰っていかれたのが印象的です」と振り返りました。

 現在作成中の提案書名は、『平成23年度 がん対策に向けた提案書~みんなで作るがん政策』です。現場から寄せられた様々な立場の方の意見、それを委員全員が読みこんで作り上げてきたことを受け、このような副題が付けられました。提案書の構成は、まずがん対策の総論(2分野)があり、その後に分野別施策(11分野)があります。各分野では、予算・診療報酬・制度の3本柱の推奨施策を提示しており、さらにこの3本柱での推奨施策を束ねることで、どのような改革が可能か、横断的な検討も行っています。

 3本柱のうち、予算面での施策については09年度の提案書をベースにしており、また診療報酬面の施策については、09年12月に『平成22年度 診療報酬改定におけるがん領域に関する提案』を、WGで審議のうえ本協議会に提出、本協議会から厚生労働大臣に提出され、平成22年度診療報酬改定の際に中央社会保険医療協議会(中医協)でも審議されたという経緯があります。一方で、制度面の推奨施策の取りまとめについては、初めてのとりまとめであったため、今会議でも議論が集中しました。

第6回 提案書取りまとめワーキングの議論の様子
 例えば、分野3「在宅医療」の制度面政策における「介護保険法の改正」については、「がんの在宅医療は医療のウェイトが大きいため、生活支援の比重の大きい介護保険法が馴染まないことが多い。現場が使いやすい、患者さんにフィードバックできるようなものにしていくことが大切」といったコメントや、「最近は40歳以下で独居の方が自宅で亡くなることが多い。こういうことも考慮に入れて頂きたい」、「患者サイドからすると、末期がんという宣告を受けないと介護保険に移行できないのは、末期がんであることを告知する是非も含めて議論が尽くされていない」という指摘などが寄せられました。また、分野1「放射線療法および化学療法の推進と、医療従事者の育成」では、がん治療に関わる専門医の規定について、「質の担保されていない専門医をどう制度化していくのか」、「学会合同の認定などにより専門医の見直しが既に始まっているので、これとどう整合性をとっていくか」といった意見が出ました。こういった議論については、引き続きMLで議論が交わされ、その都度、アンケートなどで寄せられた現場の声を振り返りながら、改訂されていきます。

 この他、「長期抗がん剤治療の経済負担については、とても声が多いので重要。これには例えば高額療養費制度などの現制度の仕組みを上手に生かすとよいのでは」といった提案、「地域のがん患者団体の連携強化を支援するための推薦施策である『がん患者連携協議会(仮)』の設置にあたっては、局長通知レベルでよいのか」との指摘など、各分野にわたり幅広いコメントが寄せられました。

  11日の成案提出に向けラストスパート
 提出間際まで妥協許さず検討続行



第7回 提案書取りまとめワーキングの議論の様子
 3月1日に開催された第7回会議では、MLでの議論も経て、議論が収斂されていきました。この会議では、前回の資料に加え、新たに「がん診療連携拠点病院制度の見直しについて」の素案、昨年度に提案した予算面での70施策のうち、とりわけ優先して着手すべき9つの推奨施策についての概要と概念図が示されました。

 「がん診療連携拠点病院制度の見直しについて」の素案は、第4回WG会議において病院ネットワークの仕組みについて検討するなかで、「拠点病院の要件の見直しが必要ではないか」という意見が出たことを受け、本協議会への要件見直しの提案書を提出することで合意し、今回素案が出されたものです。素案に対する委員のコメントは概ね前向きで、「これを是非、協議会に提出頂きまして、診療連携拠点病院の見直しに着手すべきと思います。内容については、患者目線という言葉があるのも大変好ましく感じております」、「拠点病院制度の拠点病院連絡協議会や診療連携拠点病院の連絡協議会に、患者代表の参加を必須とすることについては全面的に賛成です。がん診療ネットワークという部分にも患者の視点を反映することが大事」といったコメントが出されました。

 推奨9施策については、都道府県がん対策推進協議会委員へのアンケートの中で70本の施策のうちの優先度を聞き上位だったもの、またWGの事務局を担っている当機構で実施した患者アンケート※1で上位に選ばれたもの、またWG委員の間で特に推奨されていたもの、といった定義で選ばれたものです。これからの9施策については、緩和ケア病棟の拡充事業についてなど、集中的に審議が行われました。また、化学療法や放射線療法における看護師の権限拡大をどうするのか、研究費配分についてはどこが管理すべきかなど、議論は多岐に渡りました。成案提出がいよいよ近づくなか、現場視点かつ活発な議論が行われました。

 3月11日には、厚労省で開催される「第12回がん対策推進協議会」にて、これらの提案書が成案となり、「要旨」「提案書本文」「施策シート集」「アンケート回答集」「タウンミーティング意見集」の5点セットで提出されます。その後、協議会で審議を経て、合意されれば、3月中には長妻昭厚生労働大臣に提出されます。委員一人ひとりが、現場の強い思いを背負って紡ぎあげた成案が、今後どのような反響を起こしていくのか、期待されるところです。

(市民医療協議会・杉山真理子)


※1:「がん患者意識調査」の実施概要

 当センターが09年11月~12月に実施したがん患者意識調査。がん患者・経験者やその家族の実体験から、がん医療政策に関連する問題点や課題を可視化するとともに、がん患者・家族・遺族のがん医療政策や対策についてのニーズを把握することを目的にしています。


関連サイト


厚生労働省がん対策推進協議会提案書取りまとめワーキンググループ
http://www.gan-working.net/



※報告内容は、当時のものです。



(更新日付:2010年03月08日)

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