みんなでがん対策を考えよう 全国6か所でタウンミーティング開催 |
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今回のタウンミーティングは、厚労省のがん対策推進協議会委員20人のうち、有志14人によるWGが、平成23年度予算編成などに、各地域のがん患者・支援者、医療提供者、自治体の行政担当者などの声を広く反映させるために企画したものです。厚労省がん対策推進室の担当者もオブザーバーとして参加しています。国の予算編成に関して、市民、がん患者・支援者、医療提供者、行政担当者など当事者の意見を吸い上げる仕組みはほかに例がなく、同WGによるタウンミーティングは、現場の声を政策に反映させる画期的な取り組みといえます。
70%以上の参加者が国のがん対策予算に不満足 |
同WGは、タウンミーティングなどで集めた声を集約して、09年3月には舛添要一前厚生労働大臣に対し、「平成22年度がん対策予算に向けた提案書~元気の出るがん対策」を、09年12月には長妻昭厚生労働大臣に「平成22年度診療報酬改定におけるがん領域に関する提案について」を提出しました。平成22年度の厚労省予算案には、その一部が反映され、がん対策関連予算として前年度比38%増の316億円が計上されています。
しかし、提案書に盛り込まれた70本の推奨施策のうち予算化されたのは一部であり、がん対策予算への不満は少なくありません。タウンミーティングの参加者に対して実施したアンケートの速報値では、各開催地で約70の人が「現状のがん対策に関する予算は十分だと思わない」「あまり十分だと思わない」と回答しています。
地方財政がひっ迫する中、県や市町村のがん対策担当者の多くが、次のような声を挙げました。
「国のがん対策予算の内容が分かるのが2月か3月で、その時点ではすでに県の予算案は決まっているので、現実問題としてその年度の予算に反映できない。国と都道府県の担当者がもっと早い時期から情報交換する仕組みを作ってほしい」
「今年度、がん検診委託費に関して交付税が倍増されたが、それが公表されたのはやはり市町村の予算編成が終わっている2月だった。せっかく予算が増えても市町村の予算編成に間に合わない時期では役に立たない」
「独立行政法人以外のがん診療連携拠点病院の機能強化事業費は、県が2分の1負担しなければならないが、県の財政が厳しく国の基準額に補助が追いついていかない。県が負担するかどうかに関わらず、国から補助が全額出る仕組みにしてほしい」
これに関連して、島根県のがん患者者からは、「都道府県のがん対策担当者同士の情報交換が非常に大事だと思います。そういった情報交換や都道府県のがん対策の地域差解消のためにも、県の担当者の研修を国レベルで行うための予算をつけたらどうでしょうか。県の予算には限界がありますので、国のほうで予算化してほしい」といった提案がありました。
予算のメニューを限定せず各県が柔軟に運用できる仕組みに |
また、がん診療連携拠点病院(都道府県がん診療連携拠点病院と地域がん診療連携拠点病院、以下拠点病院)と地域や医療提供者の育成のための予算も関心の高い問題です。
「拠点病院の予算の使い道を弾力化してほしい。いまの予算では、受けられる研修などが細かく決められているが、地域や病院によって必要な研修を受けられるようにするなどの柔軟さが必要」
「来年度拠点病院の予算額が減額されているが、大きな支障が出ると思う」
「国のがん予算は、拠点病院に重点的につけられているがほかの病院もがん医療を実施している。拠点病院以外にも予算をつけてほしい」
「放射線、化学療法の専門家がいないのが最大の問題。国としてどんどん育成していただきたい」
「がん専門の医療提供者養成のための予算をもっとつけてほしい」
「緩和ケア専門医の増設、増員ができる予算が必要」
「診療機器の整備予算も必要」
「外来化学療法などが行える高機能診療所の整備を予算化してほしい」
--など、多くの意見が出されました。
一方、患者・家族の相談支援についても、
「がんサロンに対する予算をつけてほしい」
「拠点病院には相談支援センターが開設されているが場所がわかりにくい。また、かかっている病院には相談できないこともあるので、対がん協会の電話相談を利用することがあるが地方からかけると電話代がかなりかかる。患者がいつでも相談できる全国コールセンターを開設してほしい」
「これから増えるがん患者は病院だけでは過ごせない。患者や家族が孤立しないように、在宅治療者への支援を」
「30代、40代でがんになって一度仕事を辞めると再就職が難しい。そういったがん患者の就労支援もしてほしい」
といった声が挙げられています。
さらに、6カ所すべてで、検診の普及啓発、予防についても、多くの意見が出ました。
「今年度から女性特有のがん検診に対する支援として無料クーポンを配布しているが、対象者が5歳刻みで、対象外の市民の方に不公平感がある。これを解消するために最低5年間は続けてほしい」
「本当に検診受診率が高まったらいまの体制では医療機関が対応できない。医療機関が検診を行う体制を整えるための予算もつけてほしい」
「がん検診受診率を上げるためには、学校教育の中にがんについて学ぶカリキュラムを取り入れてほしい。年齢に合った健康診断の方法についての教育が必要」
「子宮頸がんを予防するワクチンが受けられるようになったが接種料は高額だ。すべての女児が受けられるように、接種費用を予算化して欲しい」
また、新潟県で行われたタウンミーティングでは、他県に先駆けて「がん登録」に力を入れている同県の担当者が、「新潟県では、がん登録にかかる費用は全額県費で負担しているが、がん登録を行っていない県もあるので、本当に必要なのかと指摘されやすい。国が補助金をつけるなど、がん登録が必要なのだという姿勢を強く打ち出してほしい」と訴える場面もありました。これに対しては、同席したがん対策推進協議会委員の一人、野田哲生癌研究会癌研究所所長が、「がん対策を進める根拠になる基本データを集めるためにもがん登録は非常に大切。国の協議会でもその必要性を強く訴えていきたい」と応じました。
同WGでは、各地域から出されたこれらの意見と別途実施されたアンケート調査の結果を集計して、「平成23年度の予算に向けた提案書案」を3月中旬の第12回がん対策推進協議会に提出する予定です。同協議会での審議を経て、厚生労働大臣に提出し、提案した全施策が厚労省や文科省などの予算に反映されることを目指しています。
(医療ライター・福島安紀)
(医療ライター・福島安紀)
※報告内容は、当時のものです。
関連情報
厚生労働省がん対策推進協議会 提案書取りまとめワーキンググループ
http://www.gan-working.net/
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