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タウンミーティング(その2)

  がん医療も診療報酬でバックアップを 介護保険・拠点病院制度の見直し必要


厚生労働省のがん対策推進協議会「提案書取りまとめワーキンググループ」が、2010年10月中旬から2月初旬にわたり、全国6か所で開催したがん対策に関するタウンミーティング。参加者からは、診療報酬改定、制度や法の改正を求める意見も多く出されました。医療費の増大や未承認薬の問題に直面する患者の切実な声も聞かれ、どの会場でも、熱い議論が交わされました。今回は、主に、診療報酬と制度に関して挙げられた意見をまとめました。


 がん対策には、診療報酬、制度も大きく関わっています。島根県、広島県、福岡県、新潟県、青森県、長崎県(開催順)の6カ所で開かれた、がん対策に関するタウンミーティングでは、参加者に対してアンケート調査を実施しました。「現状のがん対策に関する制度は、十分整備されているか」という問いに対して、「あまりそう思わない」「そう思わない」と答えた人が、約70%(当日の時間内に回答した人の速報値)にのぼりました。

 がん対策に関するタウンミーティングは、がん対策推進協議会委員の中の有志で作る「提案書取りまとめワーキンググループ」(以下、WG)のメンバーが、各地域を回り、会場に集まったがん患者、医療提供者、行政担当者と対話する形式で進められました。WGのメンバーは、会場の参加者と同じ立場で、国に要望を伝えるパイプ役になっているのが特徴です。

 予算と共に、がん対策を大きく変える可能性を持っているのが医療費の公定価格である「診療報酬」です。2010年4月に予定されている診療報酬の改定では、医師の技術料などを中心に1.55%の引き上げが決まっています。がん対策推進協議会が、09年12月に長妻昭厚生労働大臣に提出した「平成22年度診療報酬改定におけるがん領域に関する提案について」にもある通り、まだ課題は山積しているのが実情です。

  がんの在宅療養支援の仕組みづくりを求める声が続出


 タウンミーティングでは診療報酬に関して、どの会場でも、「専門医や専門看護師を配置した病院に診療報酬の加算をつけてほしい」といった声や、「チーム医療、緩和ケア、患者の相談支援、主治医・看護師による相談、がん登録などを点数化してほしい」との声が挙がりました。

 また、医療提供者からは、がん治療の初期には、特に精神面でのケアが必要であり、拠点病院における精神科医の常駐が必要。医療の質の担保のためにも、拠点病院、総合病院の精神科の果たす役割を診療報酬で評価してほしい、緩和ケア研修を受けたことを診療報酬あるいは専門医制度などで評価する仕組みが必要との声が挙がりました。がん患者さんからは、リンパ浮腫外来を保険適用にしてほしいとの声も挙がりました。

 一方で、がん治療を行う病院には、診断された病名や病状を治療内容などの組み合わせに応じて、ある程度医療費を定額化(包括支払い方式)したDPC(Diagnosis Procedure Combination 診断群分類包括評価制度)を採用する病院も増えてきています。このDPCに関しても、「DPCでは薬代も包括払いの対象になっているためどんな薬を使っても報酬が同じ。このため高額な抗がん剤を使った場合に採算が取れない。抗がん剤は出来高払いの対象にしてほしい」「急性期病院にも緩和ケアは必要。緩和ケアもDPCの対象にすることは可能なのではないか」との意見が聞かれました。

広島タウンミーティングで会場の意見を拝聴するWGメンバー
 在宅医療についても、「在宅療養支援診療所以外にもがん患者の在宅医療を行う医療機関に報酬面で手当てを」「がん患者用のデイケアを作ることに診療報酬をつけてはどうか」「在宅ケアを行う訪問看護師も診療報酬で評価を」と訴える声が目立ちました。「もっと開業医の先生に在宅医療に取り組んでほしい。病院で使われていない病床を在宅医療に移行する患者さんに使えるようにし、開業医の先生が往診して在宅医療にうまくつなげられるような仕組みを作ったらどうか」といった斬新な意見も出されています。

 自宅での療養に関して多くの地域で出たのが、「40歳未満でもがん患者なら介護保険を使えるようにしてほしい」、「介護認定を取るのに時間がかかり過ぎる。スピードアップの仕組みが必要」など介護保険に対する意見です。 在宅医療の専門家であり、新潟県でのタウンミーティングに参加した川越厚WG委員(医療法人社団パリアンクリニック川越院長)は、「がんの末期患者ということで申請すると優先順位が高くなり、早く認定してもらえます。しかし、介護保険自体が長期に安定した病状の高齢者の介護を主体に考えられていて、がんの方の介護に馴染みません。法律改正が伴いますが、大きく介護保険制度を見直す必要があります」と強調しました。

  「命の切れ目がお金の切れ目」でよいのか?


新潟タウンミーティング
 さらに、患者・支援者の多くが訴えたのが、がん治療費の自己負担軽減策と未承認薬の問題です。がん患者遺族で、患者支援を行う立場から、次のような指摘もありました。

 自己負担軽減策としては、所得に応じて1カ月の医療費が一定限度以上を超えると、その超えた分を支払わなくてよい、または戻ってくる「高額療養費制度」があります。そういった制度の活用が大切ですが、薬物治療を中心にがん治療の高額化が進み、それだけでは不十分になっているようです。「白血病の治療薬であるグリベック○R、それ以外でも治療費が高額なために治療を断念する患者がいる。どのようにがん医療が進んでも、お金がないからと治療をあきらめるのでは、またがん難民が出る。高額療養費制度では、1年間のうち4回以上高額な治療費が必要になると、4回目以降は自己負担の上限額が下がるが、失業や転職で保険者が変わったときには、また1回に戻って換算されてしまう。高額療養費制度そのものの見直しが必要」といった意見も挙がりました。

 未承認薬の問題もひっ迫しています。「私は再々発していますが、イギリスで1996年に承認された薬を日本でも使えるための臨床試験をいま受けている。なぜ、日本はこんなに薬の承認が遅いのか」、「海外で肺がんに有効と証明された薬があるが、乳がんでは保険適用になっているものの肺がんでは使えない。実際は患者さんのために保険で使っているが、いつ診療報酬支払基金からだめだといわれるか冷や冷やした状態で医療が行われている。都道府県によって解釈も違う。制度を弾力化して保険承認の仕組みをスピーディにしないと世界の医療からどんどん取り残されて患者さんにとっても不利益になる」、この問題では、患者と医療提供者の双方から、切実な声が上がりました。

 島根県のタウンミーティングに参加した檜山英三WG委員(広島大学自然科学研究支援センター長)は、「海外で認められている薬は早く承認しましょうという仕組みにはなってきている。そのあたりで、少しずつ患者さんと一緒に医療提供者も声を上げていきたい」と話しました。

長崎タウンミーティング
 それから、どの会場でも、行政担当者や医療提供者を中心に挙がったのが、拠点病院の指定要件は、「都心の状況を基準とした要件を当てはめられては、化学療法や放射線の専門医が少ない地方では拠点病院がなくなりかねない」、 「人口が集中した地域の病院では、隣接した地域の患者も診ている。二次医療圏に1つに固定せず、各県の実情に応じた拠点病院の指定が必要」との意見が挙がりました。


 一方で、「専門医の育成という意味では集約化を行わない限り、習熟度が上がらない。患者数やスタッフの少ない医療圏では、あえて集約化を進めたほうがよい分野もある。どのくらいの専門医がいるのか配置の見直しが必要」と、拠点病院の制度自体を見直す必要性も訴えられました。

 これに対しては、オブザーバーとして参加した国立がんセンターがん対策情報センターの若尾文彦センター長補佐が、「どういう職種、専門医がどこにいるのか、どのくらい必要なのかを検討するための予算がついており、次年度以降検証していく予定です」と答えました。
 
 また、検診受診率向上にはどの地域でも頭を悩ませており、「検診受診率が低い保険者にはペナルティを課すなど、保険者責任をつけたらどうか」、「かつて結核の予防のためにツベルクリンを義務化したように、がん検診も義務化が必要」、「がん検診を受けてがんが発見されたときにはがん治療費が無料にしてはどうか」のようなアイデアが出されました。

青森タウンミーティング
 問題は多岐にわたり、がん登録に関しても、「個人情報保護法がネックになっていてがん登録がなかなか進まない。がん登録法など法制化が必要ではないか」といった意見が多く挙がりました。

 同WGでは、タウンミーティングやアンケート調査などで集めた意見を受け、診療報酬改定や制度改定に結びつくような提案書の作成を行っていくそうです。


 新潟県のタウンミーティングに参加したがん患者の支援者からは、「タウンミーティングのことをもっと広くがん患者に知らせる必要があるのではないか。今日、ここへ来て意見を言いたかった人がもっといたはず」との意見も。タウンミーティングは、地域の意見をくみ上げる新たな試みですが、どのようにして多くの患者や医療提供者などの意見を集めるかは今後の課題の一つです。
(医療ライター・福島安紀)

※報告内容は、当時のものです。




(更新日付:2010年02月22日)

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