|
患者満足度指標については協議が必要
「多くの政策は『再就職支援プログラムを○人が修了』といった結果で終わってしまいがちです。例えば再就職支援なら、『就職率が60%から80%』、『市民の所得水準が向上』といった成果を上げることが目標のはずです。がん対策においても、結果と成果を区別して政策の枠組みを検討する必要があります」
この日の協議会では、参考人として、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授の宮田裕章さんが、「がん計画における評価の活用 評価枠組み、指標の考え方」と題して講演し、そう強調しました。
がん対策推進基本計画では、3年後の2015年に中間評価を実施予定です。しかし、その評価指標は未だに決まっておらず、喫緊の課題として、宮田さんら厚生労働省の「がん対策を評価する枠組みと指標の策定に関する研究班」(主任研究者/東京大学大学院行動社会医学講座・橋本英樹教授)が指標作りに取り組んでいます。研究班では、今年度、1,がん対策を評価する枠組みを多角的視点から検証、2,既存の資料の活用案の提示、3,QOL(生活の質)関連の評価枠組みの検討---といった3つの角度から指標を検討することとしています。
2期目の計画で重視されている質の評価について、宮田さんは、「どんなに頑張っても早期に指標作成が難しい領域もあります。それを放置せず、現時点で指標を設定できない理由を明確にし、今後指標を設定するために必要なステップの記述、代理指標を設定するなど領域の改善につなげていくことも重要です。具体的には、患者さんの視点からアクセス、診断、治療、フォローアップの流れを支援するために、がん診療連携拠点病院の現状や今後どういったことができるのか可能性を検討していきたい」と話しました。
中間評価について議論になったのは患者満足度調査についてです。同協議会会長代理でNPO法人グループネクサス理事長の天野慎介さんは、「患者満足度ということでアンケートを取るのは可能だと思いますが、指標となると難しい問題もあるでしょうけれども、内外で活用されている例があれば知りたい」と質問。日本看護協会常任理事の松月みどりさんからは、「代理指標としてでもいいので、ぜひ患者満足度調査を実施してほしい」と期待の声が上がりました。
それに対し宮田さんは、感染症対策、褥瘡管理といった医療として当然提供されるべき客観的な指標を満たしていなければ、いくら患者さんが満足と言っても評価されないようになっている米国のナーシングホーム患者満足度調査の例を挙げ、次のように述べました。「患者満足度は確かに難しい指標ですが、患者満足度という主観的な情報に客観的な情報を混ぜながら使う方法があります。指標にするには慎重な協議が必要ではあるものの、患者さんの病院での体験をその病院にフィードバックするだけでも改善につながるはずです。そこから、いい病院とはどういうものなのか、他施設や在宅医との連携も含めて評価できるように考えていきたい」
患者・家族が活用しやすい相談支援センターに
一方、同協議会では相談支援についても協議。佐賀県立病院好生館相談支援センター医療相談係長の大石美穂さんが、「相談支援センターが地域に根付いたグッドプラクティスと課題」と題し、院内外で相談支援センターの周知を図るさまざまなしかけを工夫したところ、2007年には年間432件だったがん相談が11年には2270件と5倍に伸びた実例を報告しました。同院では館長(院長)が相談支援センター長であることが、周知を徹底できた最大のポイント。院内では化学療法委員会レジメン登録委員会の事務局を担ったり、緩和ケア病棟運営委員会緩和ケアチームのメンバーになったりすることで、支援が必要な患者が把握でき、心の苦悩や経済的な問題を抱えた患者を医師たちが相談支援センターに紹介するようになったといいます。また、各エレベーターにポスターを貼り、地元のSTSサガテレビの健康番組に出演して、患者・家族、一般の人にもPRしているとか。
拠点病院の相談支援センターの重要な役割の一つは、院外の患者も含めた地域のがん患者・家族の相談対応です。しかし、「2010年10月末提出現況報告によると」、院外からの相談件数は全国平均14.1%で年々減少しています。そんな中、同院では地域の医師、歯科医師、ケアマネジャーが集まる緩和ケア症例検討会などに積極的に参加して、「がん相談なら同院相談支援センター」という流れができていることもあり、約4割が院外からの相談といいます。
NPO法人周南いのちを考える会代表の前川育さんは、「がん診療連携拠点病院相談支援センター訪問・調査と『提案』」を資料として提出。「実際に行ってみると、場所が分かりにくいところがありました。ホームページに相談支援センターの情報が載っていない病院もあり名称も病院によってばらばらです」と指摘しました。全国6病院を訪問し相談支援センターの独自調査を行った結果を報告し、大石さんの報告も踏まえ、次の4点を要望しました。1,相談支援センターの名称、質、相談方法などのある程度の統一する、2,国と都道府県に相談支援センターなど拠点病院のがん対策をチェックする機能を持たせる、3,同センターの機能と質を高めるためには院長・副院長の直属組織とする、4,市民との交流の場を持ち、患者・市民の目線に立って声を聴くシステムを構築する--。
国立がん研究センター理事長の堀田知光さんは、都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会の中に相談支援部会を作り、11月26日に初会合を開くことを報告。「好事例を共有すると共に、同じ相談支援センターでも都道府県の中で都道府県拠点病院がやるべき内容と地域拠点病院の役割を整理し、各センターが点のようにそれぞれ動くのではなく面で機能するようにしたい」と話しました。
同協議会では、がん対策関連の検討会の進捗状況についても報告がありました。小児がん拠点病院には37医療機関から申請があり、年内にその中から全国10カ所程度の拠点病院が指定される予定といいます。小児がん拠点病院に関しては患者関係委員からは、次のように、病院が遠くなることによって患者・家族にかかる経済的負担の軽減を求める意見が出されました。
「小児がん専門委員会の中でも、集約化と同時に経済的な負担の軽減を考慮してほしいという意見が出ていました。一部、家族のための無料宿泊施設を作るということが予算の中にも入っていたと思いますが、その他の経済的な負担の軽減についてもぜひ検討していただきたい」(天野さん)
「英国では交通費も保険でカバーされています。そういったシステムを取り入れたり、高額療養費の負担をさらに軽減したりするなど、長期的な方向でシステムを考える場があってもいいのではないか」(NPO法人パンキャンジャパン理事・眞島善幸さん)
また、都道府県では、がん対策推進計画の策定が進んでいますが、厚生労働省健康局がん対策・健康増進課が11月15~16日、都道府県がん対策担当者向けの技術研修会を実施することになっています。(医療ライター・福島安紀)
関連サイト