今後は“本気で”、質の評価指標作りを検討
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「相談支援センター113.8%整備できたといっても、例えば、がん相談をどのくらいの人が実際に利用しているのか。今後、指標としていろいろなものが考えられると思います。どういうものを評価の指標としていくのかを今度こそきっちり検討していただきたい」(読売新聞社社会保障部記者・本田麻由美さん)
「がん診療連携拠点病院に対しては共通のQI(診療の質指標、Quality Indicator)を決定して、それに基づく総合評価をしないとだめではないか。そういったことも含めた議論をし、次の5年間はがん診療の質を評価する体制をかためていただきたい」(大阪市立総合医療センター副院長・原純一さん)
同協議会では、厚生労働省が最新のデータとして公表した「がん対策推進基本計画策定後の主な指標の進捗状況」に対して、質の評価を求める声が相次ぎました。
これに対し、同協議会会長で癌研有明病院院長の門田守人さんは、「今度こそやりましょう」と強調。厚労省も今後の評価の方向性として、「ストラクチャー(構造)のみではなく、プロセス(過程)、アウトカム(成果)を反映し、全体目標につながるものとする」「既存の調査や研究(QIの検討や地域がん登録やDPCの活用等)をできる限り活用する」「パイロット的な調査(拠点病院を活用した患者調査等)を行うことを含め検討する」など、3年後の中間評価に向け、質の評価を導入する姿勢を示しています。
質の評価に関しては、行政の立場から、次のような意見も出ています。「全体的にみるのでは、地方と都市部との格差が分からなくなる恐れがあります。量的なものだけではなく、質的にも格差の解消が分かるような評価の仕方をしていただきたい」(兵庫県洲本市健康福祉部健康増進課保健指導係・北岡公美さん)
相談件数で事業費が変わる制度に疑問の声噴出
この日の協議会では、厚労省健康局総務課公衆衛生監査官が、「がん診療連携拠点病院に係る調査結果の概要」として、2011年9月から12年2月の間に9県の拠点病院へ行き、患者に分かりやすい掲示を行っているか、地域連携クリティカルパスを実施しているか、院内がん登録を実施しているか、などの実施状況を調査した結果を報告。和歌山県、岡山県、大分県で相談支援センターの掲示の改善を求めたところ、誰でも目につく位置に掲示を行ったり、相談支援センターの部屋自体を玄関に近い場所に移動したりした病院も。
この調査は、昨年、患者関係委員が同協議会で、「相談支援センターの掲示が分かりにくい」と指摘したことをきっかけに、補助金が適切に使われているか評価する目的で実施されたものです。
しかし、患者関係委員からは、拠点病院の現況調査のあり方も含め、次のような要望が出ています。
「分かりやすい場所に掲示を変えて相談支援センターの周知をして、それで相談件数はどのくらい伸びたのか。また、基本計画の中にも、ピアサポーターの必要性が書かれているが、調査結果からは、ピアサポーターやがんの治療体験者がどういうふうに協働して患者さんの相談支援にあたっているのかも見えてきません。その点も改善してください」(NPO法人ミーネット理事長・花井美紀さん)
「先日、拠点病院の機能強化事業費の交付要綱が改正され、相談の件数でがん相談支援事業に関わる基準額が変わる仕組みが導入されたと聞いています。相談件数1500件以下では基準額が400万円ですが、それでは相談員の2名配置に困難が生じるのではないか。フレキシビリティを持った制度にしないと相談支援の体制に直ちに支障が出るのではないかと思いますので、ぜひご検討いただきたい」(NPO法人グループ・ネクサス理事長・天野慎介さん)
患者委員が拠点病院と未承認薬問題の検討会設置を要望
第33回がん対策推進協議会の様子 |
一方、同協議会の5人の患者関係委員は、小宮山洋子厚労相宛てに「がん診療連携拠点病院のあり方に関する検討会並びに医薬品の早期承認等に向けた取組に関する検討会の早期設置に関する要望書」を提出。さらに、2つの大きな課題について検討会の設置を求めました。
「『救える命を救う』ことを大きな目的の一つとして制定された、がん対策基本法や基本計画の趣旨に鑑みますと、拠点病院のあり方と医薬品の早期承認等に向けた取り組みということについては検討の場が未だ設けられていません。多くの都道府県が平成25年度からがん対策推進計画の改定を迫られるということになると、今年度中の早期に国の拠点病院のあり方が一定程度提示されていないと、そもそも都道府県が困るのではないか」(天野さん)
「私ども患者・家族にとって相談支援は命綱です。相談件数によって強化事業費の線引きがされると、地方の病院の相談支援が総崩れになってしまいかねない。拠点病院のあり方の本質な議論をするのはこの協議会でも非常に重要ではないかと思っています」(NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長・松本陽子さん)
「多くの患者さんにとってみれば、適応外薬問題が一番の問題です。近々に検討する場をぜひ設けていただいて、継続的に前向きに審議を行うことを強く望みます」(NPO法人パンキャンジャパン理事・眞島善幸さん)
7月からは中長期的な課題を議論
次期がん対策推進基本計画は6月に閣議決定される見通しですが、問題は、誰が計画をどうやって執行し、患者の満足度の高いがん医療、相談・支援体制をどう整備するかです。
門田さんは、今後の協議会で議論するテーマについて次のように述べました。「これまでは基本計画を何とか策定するということでやってきましたが、今後は、長期的な事項に関して、時間をかけて議論する必要があります。例えば、診療連携拠点病院のあり方についても、拠点病院そのものが果たして10年先のがん医療の提供にとってどうなのか。地域完結型で面として医療をどうするのかを考えなければ、これからのがん患者、死亡者数が増えていく25年の間は耐えられないのではないでしょうか。その辺も含めてどういう医療提供体制を考えなければいけないのか、といった時間のかかる問題をディスカッションしていくのが、今後の協議会の役割ではないか」
さらに、眞島さんは、希少がんについても議論するよう求めています。「今回の計画では、希少がんの患者さんの声は“その他”に入りました。入ったということは評価できますが、小児がんのように対策を立てていただけないかという声があります。3年後に中間評価を行うころには、専門委員会が立ち上がって、希少がんについての対策も立てられるように、何らかの活動が協議会でできればいいと思います」
次回の協議会は7月で、今後は2カ月に1回開催の予定です。
(医療ライター・福島安紀)
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