小宮山厚労大臣に次期がん対策基本計画を答申
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タバコ対策推進へ患者団体、関係学会、日医が声明
「平成34(2022)年度までに、禁煙希望者が禁煙することにより成人喫煙率を12%とすること」。次期がん対策推進基本計画(変更案)の大きな目玉の一つは、喫煙率を12%に低減し、受動喫煙をなくす目標値の設定です。
がん患者56団体は、2月27日、野田佳彦首相をはじめ、関係閣僚と各党の代表宛に「がん対策推進基本計画におけるたばこ対策の推進に関する要望書」を提出。同協議会の冒頭でも、56団体を代表して、NPO法人グループ・ネクサス理事長の天野慎介さんが、次のように強調しました。
「国民の喫煙率の低減に向けて、たばこ規制枠組条約(たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約。FCTC)で締約国に求められている一連の措置が、次期がん対策推進基本計画において反映されますよう要望します」
タバコ対策の推進については、日本医学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会も声明文を提出。日本医師会は「受動喫煙ゼロ宣言~子どもたちを受動喫煙から守るために~」を行って、具体的な取り組みを進めていくことを表明しています。
中間評価までには質の評価も含めた指標作成を
小宮山厚労相に基本計画変更案を手渡す門田会長 |
これについては例えば緩和ケアの進捗状況を評価する除痛率など、3年後の中間評価までに指標の明確化を求める意見が出ています。
「がん対策推進協議会では今までの5年間の中で、毎年、委員から指標についての質問が出て、『研究中である』ということが出てきています。指標が不明なままであれば、次回の中間評価でもどれだけ対策が進んでいるかが明確になりませんので、次回の見直しまで適切な指標の作成を行っていただきたい」(天野さん)
厚労省がん対策推進室長の鷲見学さんは、次のように回答し、中間評価の時期を目標に指標の策定に取り組む姿勢を示しました。
「これまでの協議会、専門委員会においてさまざまな厚生労働科学研究等の成果について報告させていただきました。医療の質の評価はなかなか一筋縄ではいかないのも事実です。一方で、私共は、3年を目途に中間評価を行って、必要に応じて施策に反映するということも記載しておりますので、わかりやすい指標の作成に向けて検討を進めてまいりたいと考えています」
患者も含め官民一体で計画を実行へ
次期基本計画の策定で、患者団体からの要望が強かったのが適応外薬のラグの解消問題です。この問題については、厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会が今年1月にまとめた「薬事法等制度改正についてのとりまとめ」を受け、適応外薬を保険診療の中で使いやすくする制度の改正へ向け、厚労省の中に局を横断して継続して検討する場を設けることを要望する意見が相次ぎました。
さらに、計画に盛り込まれた項目を実行に移すために、特に、次のようなことに力を入れるべきとの意見が出ています。
「『がんと診断された時からの緩和ケアの推進』の取り組むべき施策として、『患者とその家族等の心情に対して十分に配慮した、診断結果や病状の適切な伝え方についても検討を行う』とされていますが、患者・家族も入った検討会を早急に立ち上げていただきたい」(NPO法人ミーネット理事長・花井美紀さん)
「希少疾患薬に関しては、前臨床の研究と治験を推進するにあたって、基本計画に書かれた『独立行政法人医薬基盤研究所』を有効に活用していただいて、国の機関で薬の開発を進めるスタンスでお願いできればと思います」(大阪市立総合医療センター副院長・原純一さん)
「残念ながら、わが国にはがん登録のデータがなく、ヨーロッパのように希少がんの患者が何人いるかもわかりません。今回の計画では、がん登録に関して、『全てのがん患者を登録し、予後調査を行う』という心強い文言が書かれています。ぜひ、それを早期に実現するように、患者サイドからもお願いします」(NPO法人パンキャンジャパン理事・眞島善幸さん)
「私たち全員が、みんなが意見を出し合ってきた計画ですので、今後5年間うまく稼働するように、官民一体といいますか、行政、医療者、患者など、みんなが力を合わせて実現することを願っています」(NPO法人周南いのちを考える会代表・前川育さん)
一方、在宅医療、在宅緩和ケアの充実を望む声も多い中、この問題については、次期計画ではあまり具体的な施策が盛り込まれず先送りされた形となりました。NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長・松本陽子さんは、次のように発言し、40歳未満の人も含めた在宅患者・家族を支えるサービスの充実を求めています。
「『地域の医療・介護サービスの提供体制の構築』の部分で、『がん患者の間でもそのニーズが高まっている』と表記していただきました。この表現には、どこに住んでいても、また若くてもお年を召していてもすべてのがん患者がという意味が込められていると認識しています。介護保険の適応にならない患者さんにどういうふうに手を差し伸べていくのか、どういう支援が必要なのかを都道府県の患者関係委員として、都道府県の実情などを考えていきたいと思います。地域での知恵、工夫を生かした支援も考えていきたいですし、今後、国でもそういう機会を作っていただければと思います」
同協議会では、厚労省案に対して異論は出ず、全会一致で承認。答申を受けた厚労大臣の小宮山さんは、こうあいさつしました。
「これまでの日本がん対策は、平成19年6月に策定されました『がん対策推進基本計画』に基づいて総合的に取り組んできました。しかし、がん患者は身体的な痛みだけではなくて、不安などの心の痛み、仕事を失う、経済的な負担などの社会的な痛みといった多様な痛みに直面されていることがこれまでの協議会の議論で明らかになっています。こうしたことを踏まえ、全体目標に『安心して暮らせる社会の構築』を新たに追加いたしました。また、がんを経験された方の就労の問題、検診受診率の向上、これまで対策の遅れていた小児がんにも取り組むため、重点課題には、『働く世代や小児へのがん対策の充実』を新たに追加しました。こうした変更を踏まえまして、厚生労働省としては、関係省庁とも協力してがん対策基本法の理念を守りながら、総合的、計画的にがん対策に取り組んでまいりたいと思います」
協議会会長の門田守人さん(がん研究会有明病院院長)が、次のようにまとめ、同協議会は閉会となりました。
「できるだけ皆さんのご意見を反映するということで月2回ずつ、3時間、場合によっては4時間半やるということもありましたが、無事今日が迎えられたのをうれしく思っています。これからが我々の勝負だと思いますし、いったん計画を手渡すということで終わりますが、これから本質的なディスカッションをやらせていただきたいと思います」
なお、次期基本計画は、政府内で検討された後、5月~6月に閣議決定される予定です。
(医療ライター・福島安紀)
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