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第31回がん対策推進協議会

次期がん対策基本計画素案を公表

第31回がん対策推進協議会が、2月1日、厚生労働省内で開かれ、来年度から始まるがん対策推進基本計画の素案を発表。前回見送られた喫煙率削減目標値を明記した点を評価する声も上がった一方で、「具体策に乏しい」「さらに質の評価も必要」などといった意見も続出。実現を約束できない施策は盛り込めない厚労省側との折衝が最後まで続きました。


「がん死亡者の減少は、全体目標に対する進捗状況が少し鈍化しており、今後5年間で11%の減少が必要」

委員全員参加で開催された31回協議会の様子
委員全員参加で開催された協議会の様子
 2007年に施行した現計画で10年間の目標として掲げていたのが、「がんの年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少」です。データが出ている最近5年間で見ると05年(92.4%)から09年(84.4%)までは順調に死亡率が下がってきたものの、09年から10年(84.3%)の減少はわずか0.1ポイントで、5年間の減少幅は8.1ポイントとなっているからです。

 「10年で20%減」という目標値については、がん死亡者の自然減でも概ね達成できるのではないかとの見方もあり、次のような指摘が出ています。

 「厚生労働科学研究費の研究成果発表会では、津熊班(「既存統計資料に基づくがん対策進捗の評価手法に関する実証的研究」班)から、従来、数値目標については90年を起点に作成したが、95年を起点とすると20%という数値設定はもしかしたら甘かったのではないかという指摘が出ています。20%という数値自体、果たして妥当なのか」(NPO法人グループ・ネクサス理事長・天野慎介さん)

 これに対して、厚労省健康局長の外山千也さんは、こう回答し、10年間で死亡率20%減の目標は継続されることになりました。「現状では減少が鈍化していますから、これを達成するためには並大抵の努力ではだめだということでございまして、今の基準が甘いとは思っていません。総合的に検診、予防、均てん化など、いろいろな施策を総動員することによって初めて達成できる水準の値だと思っています」

行政機関・医療機関での受動喫煙をゼロへ、目標値を設定

 死亡率削減を達成するために重要なのが、タバコの問題です。次期計画では、全体目標を達成するために定める分野別施策として、「4.がんの予防」で、2022年までに達成する喫煙率、受動喫煙率の目標値を設定しました。

 「禁煙希望者が禁煙することにより成人喫煙率を12.2%(10年19.5%)とすること」、「受動喫煙の機会を有する者の割合を行政機関及び医療機関0%(08年16.3%及び13.3%)、家庭3%(10年10.7%)、飲食店は15%(同50.1%)」

 この数値は全会一致で計画に盛り込むことになったものの、次のような要望が出ています。

 「国が目標を決めるからには、厚労省、国会、他の省庁でも館内禁煙を徹底していただきますようお願いします」(日本医師会常任理事・保坂シゲリさん)

 「がんの拠点病院でも敷地内で喫煙できる病院がありますので、そういうことを今後はなくすことを拠点病院のあり方検討で対応していただきたい。現行の基本計画策定のときにも、喫煙の問題については全会一致であったにも関わらず、翻ってしまったので、そういうことが決してないように再度強く要望させていただきます」(NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長・松本陽子さん)

 また、前回の協議会レポートでも取り上げましたが、今回、全体目標には、「すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の維持向上」と共に、新たに、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が盛り込まれました。

 計画案では、「がん患者とその家族の精神心理的・社会的苦痛を和らげるため、新たに、がん患者とその家族を社会全体で支える取組を実施することにより、『がんになっても安心して暮らせる社会の構築』を実現することを目標とする」となっています。その内容について、パリアンクリニック川越院長の川越厚さんは、終末期の安心感も含むよう求めています。

 「現実には、高齢化の影響でがんによる死亡者は推計で1.7倍増えると言われています。全体目標で死亡者を減少させ安心して暮らせるようにしても、それでもお亡くなりになる方はいる。そのときに、行く場所がない、家にいたいけれども家で何かあったらどうするのか、お金がどうなるのかなどと不安を抱えながら最後を迎える方がいるのが現実です。安心して暮らせる社会の中に、『安心して人生の最期を全うできる』ということも組み込んだほうがよいのではないでしょうか」

がん対策の進捗状況をみる質的評価導入を

 一方、分野別施策で議論になったのが、「医薬品・医療機器の早期開発・承認等に向けた取組」、いわゆる、ドラッグ・ラグ、デバイス・ラグ解消策です。具体策に乏しかったことから、次のような意見が次々と出されました。

 「適応外薬の制度改正に対して、薬事承認と保険適応のあり方について半歩前進でも構わないので、具体的な取り組みを書き込んでいただきたい」(天野さん)

 「患者サイドとしてドラッグ・ラグの問題は切実で、命がかかっている問題です。具体的な施策が何も書かれていないということになると患者としては失望するということが危惧されます。次回の協議会で、実行する立場にある方たちから、何が難しいのか聞きたいと思います」(NPO法人パンキャンジャパン理事・眞島善幸さん)

 今回、もう一つ、現計画にはなかった項目として、「目標の達成状況の把握とがん対策を評価する指標の策定」の中に盛り込まれたのが、「3年を目途に中間評価を行う」ことです。

 その手法に対しては、単なる数値の報告だけではなく質の評価を求める声が出ました。

 「今までの評価は、例えば研修の受講者数など、とにかく数を出してくるという形でした。これからの3年間の中間評価では、報告されてきた数だけではなく、内容はどうであるか調査項目を決めた上で横断的なサーベイなど、調査を前提とした中間評価でないと意味がない。『計画的な調査を行った上での中間評価』というような文言を計画の中に入れていただきたい」(帝京大学医学部内科講座教授・江口研二さん)

 「3年を目途に中間評価を行うためには、少なくともそれまでに指標も一定程度作成されていないと実際の質を見るのは難しい。例えば、『指標の策定についても3年以内を目途に必要な検討を行い』というように、ある程度期限を区切った形で中間評価に資するような指標の策定の検討をいただければと思います」(天野さん)

 健康局長の外山さんは、「この計画は閣議決定するだけではなく国会に報告します。義務として国民に周知する。ここに書いてあることは死にもの狂いで達成しなければならない。どういう手法で調査するかは任せていただきたい」としましたが、質の評価は協議会の総意として盛り込む方向で調整することに。

 3月1日に開催予定の次回協議会では、「素案」ではなく「案」となった基本計画案が審議されることになっており、その内容が注目されます。
(医療ライター・福島安紀)

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(更新日付:2012年02月20日)

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