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第30回がん対策推進協議会

「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」へ

第30回がん対策推進協議会が2011年12月26日、厚生労働省内で開かれ、次期がん対策推進基本計画(以下、次期基本計画)の全体構成と骨子を概ね確定。就労問題など社会的痛みの軽減策を新たに盛り込んだものの、患者委員らが要望していた「適応外薬の承認ラグ解消策」は明確に示されず、最後まで議論が続きました。

 「がんの患者さんは、身体的な痛みのみならず、心の痛み、家族や周囲の人との関係、就労などの社会的痛みを訴えておられるわけです。次期基本計画では、委員の皆様からのご意見を踏まえ、『がんになっても安心して暮らせる社会の構築』を全体目標として掲げ、がん患者と家族を社会全体で支えていくこととしたいと考えているところです」。協議会の冒頭、厚生労働大臣政務官の藤田一枝さんが、そうあいさつしました。

 次期基本計画の分野には、「医薬品・医療機器の早期開発・承認等に向けた取組」、「小児がん」、「がんの教育・普及啓発」、「がん患者の就労を含む社会的な問題」を新たに追加。また、ピア・サポートの拡大、精神面も含めた苦痛の軽減、就労支援、経済的負担の軽減など精神的、社会的問題の支援といった幅広い問題へ取り組む姿勢を打ち出しています。

「適応外薬対策進展なし」に患者団体から大きな反発
第30回協議会の様子
第30回協議会の様子
 しかし、患者委員らが求めてきた適応外薬のドラッグ・ラグ(薬の承認の時間差)の解消については、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で対応し、長期間治験が見込まれない抗がん剤については、「医療保険制度における先進医療制度の運用を見直し、先進医療の迅速かつ適切な実施に取り組んでいくこととする」と、現状とあまり変わらない内容になっています。

 厚労省が前回の協議会でも同じような骨子案を示していたため、がん患者団体有志一同(60団体)は、12月19日、小宮山洋子厚労大臣と担当部局の局長、課長宛てに「ドラッグ・ラグ解消に向けた制度改正等を求める要望書」を提出。次の4点を要望しています。(1)適応外薬を保険診療で使いやすくするため、米国のコンペンディア制度にならい、透明性の高い審査機関に保険償還の判断を委ねる制度改正、(2)新たな有用性が明らかとなり、かつ治験薬の再審査期間が終了して後発品が販売されている場合には、迅速に保険適用できるよう制度改正、(3)がん治療や緩和医療の現場で広く必要とされている第3、第4の選択肢となる治療薬についても患者が迅速に使用できるための施策を、(4)基本計画においてドラッグ・ラグ解消を柱とし、厚労省内の関連部局はもちろんのこと、各省庁が横断的かつ継続的取り組みを--。

  NPO法人グループ・ネクサス理事長の天野慎介さんは、同協議会会長の門田守人さんと厚労省健康局総務課がん対策推進室長の鷲見学さん宛にもこの要望書を提出し、次のように訴えました。

  「小児がん、緩和ケアにおいてもドラッグ・ラグの問題は深刻です。適応外薬であるために、例えば、医療機関において、保険で切られてしまうことを恐れて十分な量の緩和ケアの疼痛治療薬が使えないということが実際に生じています。医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議の第2回要望では、290件中243件が適応外薬で、未承認薬より適応外薬が圧倒的に多い状況です。適応外薬の話にフォーカスを当てて、次期基本計画の中に何らかの書き込みをしていただきたい」

 国立がん研究センター理事長・嘉山孝正さんも、“適応外薬ラグ”の解消に向け、次のように話しています。「問題は医療費ですが、ドラッグ・ラグが全部解消したと仮定して、増える医療費は400億円から1200億円ぐらいです。恐らく、その薬の代わりにほかの抗がん剤を使っていますので、医療費として増える金額はそれほど多くないのではないかと国立がん研究センターのほうでは予測し、昨年(2010年)中医協にも出しています。『55年通知の適切な運用を推進する』ぐらいは、書き込んでも問題ないのではないか」

  ただ、厚労省健康局長の外山千也さんは、「中医協に関係することでもあり、広範な調整が必要になりますので、わが方としては患者の立場に立って主張する心構えではいます」と発言するにとどまりました。

新たな指標を計画に入れるのは無理?!

  がん対策全体を評価する枠組みと指標については、がん対策推進室長の鷲見さんが、「全体目標と各分野別施策との関係図」を示しながら説明。外山さんが、「がん対策推進基本計画は、施策を定め、達成の時期を定めなければいけないとなっております。新たな指標を作って計画に入れるということは物の考え方としてはあり得るが、全体にわたって指標を作るのは不可能に近いことをご理解いただきたい」と補足しました。

  この発言に対しては次のように、指標を作る努力をすべきという意見が出ています。

  「すべてに指標を作ることができないのは仕方のないことですが、できるものは何なのか、開発しなければならないものは何なのかを示していただきたい」(読売新聞社社会保障部記者・本田麻由美さん)

  「今回提出された資料は考え方としては分かりやすくていい資料ではないかと思います。指標が必要だというのは、計れないものは改善されないということがありますので、何らかの数値的目標があって、それに向けて我々が努力するという姿勢が必要ではないか。不足しているものはこれから作る努力が必要」(NPO法人パンキャンジャパン理事・眞島善幸さん)

次期基本計画には喫煙率低減目標を入れるべき

  一方、がん対策としては重要でありながら、現計画で見送られたのが「喫煙率低減目標」です。患者委員を中心に、次期計画では、喫煙率削減目標を設定すべきとの意見が相次ぎました。

  「たばこ規制枠組条約にわが国も署名していますが、実際にすべてのがんにおいて危険因子といわれるたばこに関しては、相変わらず目標値が設定されていません。データを見ますと、男性の喫煙率は38%と非常に高い水準です。5カ年で喫煙率を50%削減するというような明確な目標値を立て、それをがん対策に入れるという意志を示すことが重要ではないか」(眞島さん)

  「私も含めましてがん患者の願いというのは、私たちのような思いをする人を少しでも減らしたいと思っております。私たちのような思いをする人を増やすであろうと科学的根拠が出ている喫煙への対策を基本計画の中で書いていただくよう、強く要望します。」(NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長・松本陽子さん)

来年度予算では小児がん拠点病院整備費など計上

  さらに、次期基本計画を実行するために重要なのが国のがん対策予算です。この日の協議会では、24日に閣議決定された厚労省の2012年度がん対策予算案が発表されました。

  がん対策予算は357億円(11年度当初予算比14億円増)で、次期基本計画の目玉の一つである小児がん拠点病院の整備費と強化事業費(小児がん対策計4億円)を計上しています。また、新規事業として、臨床試験の質向上のために臨床研究コーディネーターやデータマネジャーを雇用する「がん臨床試験の基盤整備費」(1.5億円)、在宅緩和ケアを行う医療機関のリスト作成や研修費用など在宅緩和ケア地域連携事業費(1.1億円)、抗がん剤など難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究経費(16億円)が盛り込まれました。

  その一方で、がん診療連携拠点病院の機能強化費が5.6億円減の28.7億円になるなど、がん医療や相談支援を強化するための予算は減額となりました。

  厳しい予算編成に対し、次期基本計画の実行性を危ぶむ声も出ています。「次期基本計画を作って、5年後目標値にどうやって近づくかというためには、全体構成の第5の5にある『必要な財政措置の実施及び予算の効率化・重点化』は避けて通れない話だと思います。次回はそこを含めた素案を出していただきたい」(名古屋市病院局長の上田龍三さん)

  次回協議会は2月1日、今回の全体構成と骨子を基に厚労省が作成する「次期がん対策推進基本計画案」について議論する予定になっています。
(医療ライター・福島安紀)

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(更新日付:2012年01月20日)

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